まだまだ暑さの厳しい9月某日、台風の合間をぬって東京都美術館の企画展『木々との対話ー再生をめぐる5つの風景』を見に行きました。
私は木にまつわる仕事をしていることもあり、作品の材質や加工方法などが興味深い企画展でした。今回は、土屋仁応、須田悦弘、舟越桂の三人に注目したいと思います。
まずは土屋仁応。猫や羊のほか想像上の生き物をモチーフにしている彫刻家です。気になる材質は楠、ケヤキなど、木彫仏像に使われるものが多いようでした。彫り跡を残した部分とすべすべに丁寧に仕上げた部分で造形のメリハリがついています。自然な手技がありしかし人工的な精緻さもある作品が特徴的でした。
作品は入ってはじめの展示室にまとめられています。同時に開催されていたポンピドゥー・センターの企画展を見てきたと思われる年配の女性二人組が「色っぽいわねー、脚が。ほら!」としきりにうなづいていたとおり独特の艶かしい雰囲気がありました。
羊の頭は荒めの渦巻きで毛のモワモワ感を。
一方、顔は磁器のような質感になっています。
こちらの猫はいい木目が活かされています。彫り跡が毛並みのようにも見えます。
龍と猫。瞳には水晶やガラスがはめ込まれていて深い光を感じます。焦点がどこにあるかわからない、怖い雰囲気も。
これは土台とつながっているところを見せた作品。一木造にしては大きすぎると思うのですが、どこで接いであるんだろう…。
見つめあう生き物。展示室のボリュームや質感を強調させる照明も効果的でした。
土屋さんの作品は装丁に使われているものもあり、私の大好きな小説、今村夏子の『こちらあみ子』の表紙も飾っています。
須田悦弘は木を削って本物と見まごうような精密な植物の彫刻を作っています。版画の材料になる柔らかい朴などの木を使っています。植物が生えるはずのない場所に生えている(展示されている)という文脈のゆがみにクラクラッ!とさせられる作家です。今回もあまりに意外すぎる場所に展示されているため、事前に場所が明かされていました。それでも見つけられない人がいて、私も年配の女性から小声で「どこにあるか、わかった?」と聞かれ、こっそり教えてさし上げました。そんな驚きの共有も鑑賞の面白さかもしれません。
こんなところにユリが生えていたり…。
そして舟越桂。撮影不可だったので写真はなしです。どの作品もこれは舟越桂だ、と分かる特徴のある作家です。そのためによく知っていると思っていたのですが、胸像は実寸より大きく、自分の中で感じていたサイズより一回りか二回りぐらい大きいようにも感じました。本物、実物を見るのは大切。まさにそう思わされました。
この展覧会、土屋仁応の仕上げの使い分け、須田悦弘の展示方法、そして舟越桂のサイズ感に注目してみてほしいです。
ちなみに、東京都美術館は調度品の色使いが絶妙で大好きです。これは帰りに撮った写真。エドワード・ホッパー風味になりました。
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東京都美術館
『木々との対話ー再生をめぐる5つの風景』
2016年7月26日(火)〜 10月2日(月)
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