夕食を終え、小さい音でラジオをかけながらメールを書いたりしていたところ、聞き覚えのある音が聞こえてきたので、咄嗟にボリュームを上げました。それはTENORI-ONというヤマハが発表した楽器を紹介している番組でした。新製品なのに知っている、この音!と思い耳を澄まして聞くと、TENORI-ONはアーティストの岩井俊雄とヤマハのコラボレーションによってできた楽器とのことでした。この既視感、ではなく、既聴感はなんだ?と思いめぐらしてみましたら、2001年、私は原宿のラフォーレミュージアムで開催された「岩井俊雄テクノロジープレイグランド2001 PHOTON~光の音楽」という展覧会で、確かこのTENORI-ONの小さい版(ワンダースワン版だったか?)に触ったことがあるのです。
アート作品を音で思い出す、という体験が私はとても不思議に思えました。例えば、ある作家の同じ作品を別の展覧会で見かける、とか、図録で見つける、というのと違い、「前に体験したのと同じではないけど、何故か知っている。」というじんわりした記憶が、懐かしく、心地よく甦ったからです。このように曖昧な輪郭を保ったまま私の中に記憶され、そして思い出されるという長い時間の流れそのものが、私にとってこの作品を鑑賞する、という体験だったのかもしれないと思いました。随分と時間がかかって、気持ちのよい場所にたどり着いたような夜でした。
TENORI-ON|ヤマハ株式会社 ウェブサイト