先週末、国立新美術館で『アヴァンギャルド・チャイナ ー〈中国当代美術〉二十年ー』という企画展を見てきました。大学院時代の中国人の同級生から、上海で現代美術館ができるという話を聞いたり、中国のアート市場は今とても活気があるという話題をあちこちで耳にしていたので、期待していた展覧会です。
政治思想や国家の情勢に左右されてきたであろう、80年代の葛藤溢れる作品群を通り過ぎ、90年代の映像作品のコーナーで、私は強烈に圧倒される思いになりました。馬六明(マ・リウミン)と張洹(ジャン・ホアン)は特に、鮮烈な印象を残しました。二人とも、自身の肉体を使って表現する作家です。裸で魚を調理したり(馬六明)、天井から宙づりになって自分の血を抜いたり(張洹)する、衝撃的な映像が続くのですが、どうしてもそこから目が離せないパワーを感じました。そして「なんだか、とてもかなわない!」という思いになりました。
同じような気持ちを、イギリスの大学院にいた時に感じたのを思い出しました。私が通っていた大学には多く中国人学生がいました。キャンパス内では、中国人学生同志で連れ立って、抱えきれない程の食材を買ってきて、寮の小さな台所で豪快に料理をしてモリモリ食べている様子をたびたび見かけました。その時も同じように圧倒される気持ちになったのです。食べてそして生きていくという、この肉体の力強さは、日本人の私にはどうも少ないのかもしれないと思ったのでした。この辺りの感覚はなかなかうまく説明できないのですが、肉体への関心と態度が日本人とは違うんだなあ、国民性というのは本当に違うものだなあと初めて実感した瞬間でもありました。
また、最近仕事のある場面で「相手の文化を理解することは、安全保障につながる」と言った方が居り、なるほどー思ったことがあります。この展覧会の体験は、その一例と言えるのではないかと感じました。馬六明と張洹の作品に見たように、他者との違いを肌で感じさせ、考えさせる体験は、アートが私たちに与える潜在的な力であり、奥行きの深さであると思いました。心情的な問題でぎくしゃくしがちなことが多い中国と日本ですが、アートがその隙間を縮めてくれるものになるかもしれない、という期待を感じる展覧会でした。
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