ブリティッシュ・カウンシルで行われた「アートと街の新しい可能性〜英国フォークストン・トリエンナーレのキュレーターを迎えて〜」というトークを聞きにいきました。ゲストであるキュレーターのアンドレア・シュリーカー氏は、これまでロンドンのギャラリーやプロジェクトに関わったあと、この美術展のキュレーターとして参加しました。
今年初めて開催されたこのトリエンナーレは、人口が5万人に満たない英国南東部海沿いのフォークストンという街が舞台でした。まさに舞台といえるほど、街と住民とアートが絡み合った美術展であると感じました。残念ながら当日ちょっと遅刻してしまったため、美術展の概要や経緯については聞き逃してしまいましたが、参加作家とその作品からはフォークストンの社会的課題と絡めた構成が分かりました。例えば、年金生活者とその犬たちをテーマにした作品、第一次世界大戦での犠牲者(フォークストンはフランスに面した港町なので、ここから戦いに赴く兵士が多かったようです。)の数だけナンバーを打った石を、芝生に敷き詰めた作品、街の核となっていた港を展示空間に選んだ作品など。特に私が面白いと感じたのは、トレイシー・エミンというイギリスの作家です。彼女自身フォークストンの近くで生まれた作家で、今回フォークストンで問題になっている10代の妊娠をテーマに取り上げました。赤ちゃんの服や靴下、靴、ぬいぐるみなど本物そっくりの形をブロンズで作り、街の公園や駅のホームなどに配置しました。さらに、学校教育から外れてしまった子供たちのための教育プログラムも企画されたそうです。そういったこともあってか、屋外に置かれたこれらの作品が若者によって壊されたりすることは全くなかったと、シュリーカー氏は語っていました。
参加者の質問も、実務的な課題についてのものが多く充実していました。例えば、小さな街で現代アートの展覧会を開催する、という事態に住民からの拒絶はなかったのか?50万ポンドもの資金をどうやって確保したのか?これだけの規模の美術展を開催するまでのタイムスケジュールは?などなど。最初の質問に関しては、住民の”awareness raising(意識を高めること)”が必要で、そのために教育プログラムが重要だったと彼女は答えていました。街ひとつをフィールドとして、美術展を開催するには時間と軸のぶれないテーマ設定とそしてもちろん資金がとても重要だということを再認識した機会でした。シュリーカー氏の「キュレーターにとって、街ひとつを美術展として企画できる機会はめったにないことだ」という言葉もとても印象的でした。
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