NHK教育のETV特集『目覚めよ、身体、感覚の宇宙〜メディアアーティスト岩井俊雄の特別授業』(2月15日22:00〜23:00)を見ました。こちらでも書きましたが、TENORI-ONの作者であり、私が最も敬愛するアーティストの一人である、岩井俊雄氏が小学校で授業を行うという番組です。私は以前から、二人のお嬢さんとおもちゃづくりをしている岩井氏の日常を彼のブログで拝見しており、家庭を飛び出して、学校教育の現場で彼の創造性がどのように発揮されるのかとても楽しみにしていました。
学校から依頼されて2週間で6学年に授業を行うことになった岩井氏。先生たちへのプレゼン、事態を把握しきれない先生たちにも粘り強く思いを伝え、図工室や音楽室でおもしろそうなものを探し、授業内容を練り、ちょっとした躓きもあり、そして・・・と番組は進んでいきました。それを見ながら私は「この番組の落としどころは、どこになるのだろう?『無事授業が終わってめでたしめでたし』ということになるのかしら・・・?」と妙な気持ちになってきました。果たして番組は、岩井氏がナビゲートする世界に全身で引き込まれ目を輝かせる子どもたち、そしてほっと安堵と達成感を見せる岩井氏、で終わりました。その後、私の妙な気持ちは2時間程続きました。
その気持ちとは、「確かに子どもたちは楽しかった。先生たちも保護者たちも一緒に楽しんでいた。岩井氏は汗だくで頑張っていた。そして彼のクリエイティビティは余すところなく発揮されていた。でも、それでよかったのかなあ?」というものでした。私が一番気になったのは(TV番組というバイアスはかかっているにせよ)先生たちが及び腰の中、岩井氏が学校教育の現場で一人奮闘している「無理な感じ」です。私も無理な要求をしていると自覚していますが、岩井俊雄というアーティストが教育現場に飛び込んだのに、彼がそれを一手に背負ってしまうのはもったいないと感じたのです。
たまたまラッキーなことに実現した「特別授業」ではなく、学校教育に何が必要だからこの授業をするのか、子どもたちはこの授業を受けて将来的にどうなってほしいのか(多分、みんな彼のようなアーティストになってほしい、ということではないはずです)、という広いところまで先生たちも含めてミッションを構築して、岩井氏にそのプロジェクトに入ってもらうという形になれば、別のジャンルのプロフェッショナルたちにも同じように、子どもたちの目を輝かせる授業を行ってもらうことが可能になるのではないかと思います。そこに必要なのは、プロデューサーのような存在なのでしょうか、それともマネジメントやコンサルティングのようなものでしょうか?私にはまだはっきりした答えは見つかっていません。
アートはアートの世界だけで完結すべきではない、社会に何かを投げかけてこそアートの力が発揮されるはず、と最近考えている私には、この番組はかなりヘビーな課題が満載でした。