耳についてのデザイン、と聞いてなにを想像しますか?音楽ホールや劇場の音響?あるいは視覚障害者のための音のガイダンス?今日取り上げるのは、TEDで建築と音について語ったJulian Treasureです。
「私たちは気が狂いそうになるような環境をデザインしている」。Treasure氏はざわついたレストランや、チープなスピーカーで流れる飛行機のアナウンスを例にあげました。私自身が聴覚過敏気味なところがあり、人の声や生活音がとても気になることが多いので、どのような話になるか期待大でした。
うるさいレストランはさすがに気に障ります。と言いつつ、飛行機のアナウンスは、しかたがないのかな、とあまり疑問には思っていませんでした。彼によると、このようなひどい音環境は、私たちの健康、社会的なふるまい、効率に影響するそうです。健康や効率はなんとなく想像がつきました。プラス、社会的ふるまいというは興味がわきます。
悪影響の例として、彼は病院と教育をピックアップしました。病院については、医療機器の音が患者の睡眠を妨げたり、医療従事者の正確な判断を邪魔するなど、言わずもがな、ですが教育についてはもう少し詳しく聞きたいと思いました。
彼は教育を、花の水やりという面白いメタファーで表しました。花に届く前に蒸発してしまう水があるように、ノイズであふれている音環境では、授業の内容が届かないままになってしまう子どもたちがいます。彼はそのような子どもたちを三つのグループに分けて説明しました。
まず、風邪で鼻や耳が詰まっていたり、花粉症を持っている子ども。このような子どもは、耳が不自由な子どもと同じぐらい聞くことを難しく感じています。そのグループが全体の約八分の一程度いるそうです。二つ目のグループは、英語が母国語でない子ども、そして三つ目のグループは内向的な子ども、だそうです。内向的な子どもたちはうるさい環境で集団行動をするのが苦手なのだそうです。私はここに注目しました。なぜなら私がまさに三つ目のグループの人だからです!予期できない情報が耳にばらばら入ってくると、話がどこに進むのか分からなってイライラしたり、不安になったりするのです。このようなグループの子どもたちは、劣悪な音環境のせいで充分な教育が受けられない事態に陥ることになります。
生徒だけでなく、先生にも影響があります。ドイツの研究によると学校の教室の平均的な騒音レベルは65デシベルで、これぐらいのうるささにいると、先生は声を張り上げるだけでなく、心拍数まで上げているそうです。先生たちは心臓発作の危険を冒して授業しているのです!
音環境を積極的によくする、という考え方はとても新鮮でした。視覚や触覚、味覚に比べて、聴覚は逃げがたく、時には暴力的であると感じます。このあたりがますます音に過敏になってしまう理由と言えるかもしれません。安全な音環境に居たい、という欲求です。先ほど上げられた、内向的な子どもが授業に対応しきれなくなってしまう状況がよく分かります。
音環境をデザインするためには、静かな環境を作るより、もっと複雑な視点が必要になります。彼も"Sound Education"というカンファレンスで音響学者、政府関係者、教師などと、「耳と教育」について議論を交わしたそうです。
彼はこのスピーチを締めくくるにあたって、建築家の友人の言葉「目に見えない建築」という言葉を取り上げました。見た目だけでなく、生活の質や健康、社会的ふるまい、効率を高めるために音に重視した建築という意味です。建築家が競い合って、斬新で、人を驚かすような建築を作り出す場面を目の当たりにすることも大好きです。それに加えて「目に見えない建築」に私はデザインに対する希望を感じました。
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