アマゾンから届いたDr. Richard Sandellの『Museums, Prejudice And The Reframing Of Difference』を少しずつ読んでいます。ちょっと反則かもしれませんが、一番最後の「(Re)framing conversation」という章から読み始めました。
ここではケーススタディなどと絡めて、博物館がどのように社会の偏見や先入観に関与できるか、について包括的に論じています。もともとDr. Sandellは、来館者と博物館の間には、社会で起こる偏見、(例えば人種、宗教、移民問題、セクシュアリティなどに対して)積極的に知識を得て会話を生むという強い力があると考えてたそうです。しかしその予想に反し、来館者は自分が偏見を持っているかどうかより、自分と他者の違いに対して戸惑い、葛藤を見せていることが分かったそうです。一方博物館では、多くの学芸員がバイアスを感じさせる展示を避けたいと思っており、特定の視点に立った展示を作ろうとすると制作側からの横やりが入る、という事実もありました。ここで彼は、偏った視点に立って語るのは博物館として相応しくない、と言って平等主義を説く人たちこそ、まさにその視点に固執している、と指摘しています。例として、自然科学博物館は環境(保護?)主義を支持し、来館者も環境に対してそのような考えを持つように誘導している、ということをあげていました。(p.177)
ここには、博物館側のジレンマが感じられます。彼はこう書いています。「博物館の現場では、自分たちが『正しい』と信じる結論に来館者を誘導することに居心地悪く感じており、また批判的でもある。しかし、そこを来館者に委ねすぎると、偏見や先入観と向き合って自分自身の価値観や行動と照らし合わせることができなくなる。」(p.178) さらに彼は、Constructivism(構成主義)の限界について言及しています。Constructivismは博物館学、特に博物館教育でよく出てくる概念です。一方的にひとつの視点から来館者に教え込むという従来の教育に対して、個人の解釈や複数の視点を重視した教育の考え方です。しかし、Dr. Sandellは、ケーススタディとして取り上げた聖マンゴ宗教美術館を例に挙げ、いろいろな宗教コミュニティの個々の声や宗教にまつわる事物を取り上げているが、博物館側は自分たちが主張する、異なる宗教に対する敬意や相互理解の重要性に対して、否定的だったり批判するような意見を避けようとしている、と書いています。
私も大学院にいた時、Constructivismの理論をあちこちの文献で見ましたし、自分のエッセイにも引用していましたので、この事実はかなり衝撃でした。特に、Dr. Sandellがテーマにしている偏見や先入観を問う展示に関しては、Constructivism的な見方では、対話や気づきを生みにくくしているということを指摘しています。来館者が無意識に、無批判に持っていた視点に疑問を投げかけつつ、前向きな対話ができるような場を作ることの難しさについて考えさせられました。
ところで印象的だったのは、この本では主語の"I"を多用していることです。大学院の授業では、アカデミックな文章では"I"とか”my”といった単語をあまり使わないと教わったので、とても意外で新鮮に感じました。しかし同時に、先生個人の強い思いや、問題意識にとても密接しているように感じられて、ぐっと文章に引き込まれました。
この本は、博物館学の専門書ではありますが、社会学や教育学に興味がある人にも意義深い内容なのではないかと思います。さらに読み進めていくのが楽しみであり手強くもあります。
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