震災関連の話題が続きます。今日は建築やデザインを扱う雑誌、AXISの8月号から、アトリエ・ワンが震災後の復興を語ったインタビューについて書きます。アトリエ・ワンは塚本由晴と貝島桃代による建築家のユニットで、このブログでもこれまで何回か取り上げていました。
アトリエ・ワンは、建築を、街や振る舞いといった文脈で語っているところがとても興味深かったので、東日本大震災についてどのようなアクションを取っているのか気になっていました。インタビューでは、牡鹿半島で行なったフィールドワークや復興ビジョンが紹介されています。私が注目したのは、今回の震災以降、これから私たちが生活する社会や環境をどう考えるかについて言及していることです。その語り口は大変落ち着いていて現実的で、希望が持てるものでした。
例えば今回の震災でさかんに言われた想定外という言葉について。塚本氏は、震災に見舞われた場所を元に戻し、新たに作り上げるという視点から一歩進んで、私たちがこれから都市をどのように捉えていくか、から考え直す必要性について以下のように述べています。「都市に住むことはさまざまな想定に囲まれているのだけど、それを全部知っているわけじゃない。福島の原発が東京のためにつくられていることも知らなかった。要するに都市は想定の塊じゃないか、それならば、個々の設計のなかでも想定の問い直しが起こるべきだと思ったんです。」
さらに、復興に必要なのは行政と科学技術者から一般の人、という上から下へのやり方ではないと語っています。想定の問い直しに必要なこととして、ある想定のもとに成り立つ工学、想定の内容を決定するヒューマニズムや哲学や歴史、工学分野に関わりつつ想定を疑う建築やデザイン、そして当事者である一般人が混じり合うフォーラム的な場を提案しています。興味深かったのは、震災からの復興に関してもちろん工学や建築が復興に不可欠と思っていたものの、そこに人文系の要素がそこに加わっていることです。人文系の分野が出来ることは、震災を通じて洞察を鋭くしたり、価値を問い直すなどにとどまり、実際的な復興には力が及ばないと思っていたからです。
貝島氏は、フィールドワークを経たものの、まだ建築に落とし込む段階ではないということに関して「(前略)私たちが設計しなくてもいいと思います。けれども、ある種のハーモニーというか、ビジョンが共有できれば、いきなりここに高層マンションが建つことがないだろう、と。」と言っています。このハーモニーに人文系を含めた複数のジャンルが関わることが出来れば、震災から復興するための知恵に深みが出るということだと思います。一日も早く日常を取り戻すことと同時に、これから続く社会のあり方を問い直し、私たちが震災と共に「ある」ことで現実をより的確に見極めることができると言えるでしょう。
最後に塚本氏は、今回の震災も歴史の中で日本人が何回も経験してきたこと、と語り、貝島氏は、日本がこれ程の震災に見舞われることは想像していなかったけど、だからこそ冷静に普段の眼差しが重要、と語っています。この言葉から伺える視点の深度が、私がアトリエ・ワンを信頼し、これからの活動に期待している理由です。
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