2012年7月12日木曜日

文化の民主化、あるいは新しいビジネスモデル

 ここ数年購読しているpodcastにEtsyがあります。アート、デザイン、クラフトといったテーマで短いインタビューやレポートなどを紹介しているものです。これは、Etsyという、オンライン上で個人がクラフト、アクセサリーやファションといった作品を公開し、販売できるサイトが配信しています。私も以前このサイトからキャンドルを買ったことがあります。podcastでは注目どころのアーティストや若い作家、小さなアートプロジェクとなどバランスのよく取り上げつつ、質にぶれがないところに魅力を感じています。音楽やカメラワークも凝っていて、無料で配信するにはどのような仕組みがあるのか気になっていました。そして最近、思いがけずこのサイトを紹介した記事をNew York Timesで見つけました。
 
 この記事、"Web Site Illuminate Artists"では、オンライン上でアート作品を投稿してもらい、投票で一番人気のあった作品がタイムズ・スクエアの広告板で展示されるというArtists Wantedというサイトを紹介していました。似たようなものではTwitterで見つけたNONSENSE SOCIETYというサイトがあります。これまでディーラーや美術館に縁を持たなかった作家でもデビューできる新しい場として、注目されているそうです。これは非営利のチャリティではなくビジネスとして成り立っています。Artist Wantedには6万人のユーザーがいて、作品を登録するには25ドルを課しています。さらにこの事業に可能性を見出した企業からも投資を受けており、昨年はまだ利益が上がっていなかったにもかかわらず、130万ドルの資金を得たとのこと。

 Etsyに話を戻します。この記事によると、EtsyもArtists WantedもUnion Square Venturesという投資会社から融資を受けているそうです。(この投資会社はクリエイティブ産業やソーシャルメディア系の企業に多く投資しており、Twitterもその一つに上げられていました。)前記のpodcastもこのように資金を調達する仕組みの中で可能になっていると考えられます。才能を吸い上げる新しいスキームが確立することでクリエイティブ産業の裾野が広がり、ビジネスとしても可能性が見出されている流れが見えます。

 記事では、このようなサイトを創設した人たちが、金儲けだけでなく、「文化の民主化」に関心を寄せていることを伝えています。しかし多くの隠れた才能にチャンスが開かれるということは、同時に見る側にもよいものを見極める眼が問われることになると思います。権威主義ではないですが、多数がよいと思うものが常に質が高いとも限らないというのが私の見方です。Etsyを見ても、(私のセンスから見て、ですが)「これを売り物にするのか?!」というレベルのものがあります。プロとアマチュアの境目をどのように定義づけるかという疑問が沸き上がる、とも記事では指摘されています。

 Etsyが設立されたのは7年前、Artist Wantedは4年前と実績は短く、アート業界ではまだ始まったばかりのモデルといえます。が、ある美術館の学芸員は、このような作家はまだ主流にはなっていないものの、注目する必要があると語っています。アーティストにとって作品を公開する機会が増え、希望の持てる仕組みに見えます。しかしリーマンショックやヨーロッパの金融不安などを見る限り、投資の対象になることで抱えるデメリットにも注視する必要があります。いささか及び腰の発言になってしまいました。とはいえまだ始まったばかりの試み、これからこれらの取り組みがどのように変化していくか、注目していきたいと思います。

New York Times "Web Site Illuminate Artists" (2012/6/17)

0 件のコメント:

コメントを投稿