近所の図書館には、新聞の書評で取り上げられた本を集めたコーナーがあります。一通り見るとあまり間違いのないセレクトができるので、時間のないときにはここだけチェックすることがあります。
この日も時間がなく書評コーナーにざっと目を通していたとき、刺激的な背表紙が目に入りました。乗越たかお氏の『どうせダンスなんか観ないんだろ!? 激録コンテンポラリー・ダンス』です。奥付によると初版は2009年、著者は舞踊評論家とのこと。ひっくりかえして目次をみると「第一章 私の偏愛するダンス」「第二章 どうせダンスなんて観ないんだろ!?」「第三章 乗越たかお激論集 アレ的なナニか」と続き、本気なのかよくわからん、と思いつつ借りてみてびっくり。コンテンポラリー・ダンスが好き、とか吹聴しているのにこの方の本を読んでなくてすいませんでした!と平謝りしたいような充実した内容でした。語り口はカジュアルですがはっ!と膝を打つような的確な解説になっています。雑誌などの連載を集めた本なので、当時の公演評やフェスティバル情報、ホットトピックスが生き生きと伝わってきました。
日本海外問わず、この本にはライブ感のある記事が詰め込まれていますが、コンテンポラリー・ダンス全体を網羅的に扱っているので、振付家やダンサーの時代的な位置づけを知ることができます。特に私の目が見開いたのは、振付家でダンサーである勅使川原三郎の記述でした。乗越氏は「日本のコンテンポラリー・ダンスの元年を1986年とする」と書いています。この年、若手振付家の登竜門、バニョレ国際振付コンクールで勅使川原三郎が日本人として初めて入賞し、舞踏の創始者である土方巽が没しました。どちらも高校生だった私が生で観てみたい!と切望していた作品でした。当然、大学に入って初めて観に行ったのは勅使川原三郎で、作品は「Bones in Pages」だったことを鮮明に覚えています。
と、ノスタルジーに浸りながら読んでいましたが、さらにこのような記述が。「当時(1986年)の勅使川原は、髪までも白く塗り、人形振りのようにシャープな動きから、たゆたうような情緒あふれる動きまでを自在に操って、硬質で豊かな美的空間を作り上げていた。振付にしても『ただ倒れて起き上がる』というだけの動きで魅力的なシークエンスを作ってしまう発想の自由さ。さらに衣装・照明・音楽など、すべてにおいてキッパリした新しさがあった。ああもうここから次の時代が始まるんだな、と観客は震えるような思いで見ていたのである」(p8-9)。勅使川原三郎の、完璧にコントロールされた美的世界に私はただうっとりうち震えてただけですが、その感情が言葉で書かれており、そうそう!こういうことだったのよ!と大きく頷きました。
私が大学に入ったのが90年代半ばで、それから今までずいぶん多くのコンテンポラリー・ダンスを観てきたと思っていましたが、この本を読むと私の趣味が恐ろしく偏っていながら、まあ的は外していなかった、ということが解りました。が、ダンス業界の知識は2003年あたりで止まっていました。これは慌てて着いて行かねばなりません。
という訳で乗越氏のもう一冊の教科書的著書である『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』買って読んでいます。これは海外と日本のダンサー、カンパニーごとにページが分かれているので、まさに網羅的なガイドと言えます。コンテンポラリー・ダンスに興味がある人は、とりあえず押さえておきたい二冊です。
いま私の頭の中は、いいダンサーの舞台を観たい!生で観たい!そんなこんなで一杯です。
乗越たかお 著
NTT出版
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