2014年8月1日金曜日

東京都美術館『楽園としての芸術』展ブロガー★ナイト








 夕暮れの東京都美術館、誰もいなくなった館内に入ります。全ての来館者が退館した後です。ロビーやミュージアムショップもいつもと違って照明が暗く落とされています。館内を進みエスカレーターで地下階に降りると『楽園としての芸術』展の入り口が次第に見えてきて、談笑したり写真を撮ってりしている音が聞こえてきました。


 この日、東京都美術館で企画展『楽園としての芸術』展のブロガー特別内覧会が開催されました。ブログで紹介できる人が招待されたイベントです。私も招待されたブロガーの一人です。


 『楽園としての芸術』展は東京と三重にある「アトリエ・エレマン・プレザン」、鹿児島にある「しょうぶ学園」で制作されたダウン症や知的障害のある人びとの作品を展示しています。


 東京都美術館は2012年、2年間にわたるリニューアル工事の後「創造と共生の場=アート・コミュニティ」「生きる糧としてのアート」「心のゆたかさの拠り所」というキーワードをもとに新しいミッションを掲げました。今回の企画展はこのミッションの体現を目指したもので、学芸員の方が全国の障害者施設やアトリエなどを訪ねて出会ったのがアトリエ・エレマン・プレザンとしょうぶ学園です。














 
 展示されているのは絵画や立体などの純粋な造形作品、工芸作品、工芸の要素が含まれる作品などさまざまありました。中でも私に強い印象を残したのがしょうぶ学園の、より工芸に近い作品です。このままカードにして売っていたら欲しいな、と思わせる絵、刺繍や布を縫い付けてリメイクし機能から自由になったシャツ、木工の皿や入れ物が紹介されています。しょうぶ学園は知的障害者の作業所として下請け作業を行なう施設でしたが、30年近い時間をかけて一人ひとりのしたいことはなにかを考え、創造性のある作品を作れるような環境を整えていきました。その長い試行錯誤の後にこのような作品が生まれるようになりました。


 ひとつの展示室にまとめられたしょうぶ学園の作品の中で、いちばん光を放ってたのが奥にある3つの小さなガラスケースでした。カラフルな布の切れ端が入った小瓶と平たいスチール缶、作者のものと思われる道具箱が展示されています。布は1cmにも満たない小さなもので、はっとする色使いで玉結びが施され重ねてられています。道具箱はクッキーが入っているような細長い箱です。はさみは使い古されて指を入れるところが壊れ、テープで補修されています。その脇にはくるくるに巻かれている糸束。持ち主の創作の過程が垣間見えてくるようでした。どれも特別なものではないのに、どれが欠けても完成されない、小宇宙ともいえる深みを感じました。背景を知りたいと思い学芸員の方にお話を聞きいたところ、道具箱は実際に使っているものだそうです。作者は50代ぐらいの女性でいつも肩幅ほどの狭いスペースで作業をしており、驚くべきことに糸くずが全く出ないんです、と仰っていました。さらに素敵なエピソードがあって、平たい丸缶に布切れが入った作品は、あるとき施設の職員の方に彼女から「プレゼントです」といって渡されたものなんだそうです。つつましく細かい部分にこそに誠実さや創作の喜びが表れているように見え、ものを作る人でなくても共感できるのではないかと感じました。










 


 美術館から出ると空はすっかり暗くなっていました。目の前に見えたのがこの写真の風景。外から赤い壁と並んだ椅子が見える、この美術館で私が好きな場所のひとつです。最後まで心満たされる夜の美術館でした。






















-----------------------------------------------------------
『楽園としての芸術』展 Art as a Haven of Happiness
東京都美術館 ギャラリーA・B・C
2014年7月26日(土)〜10月8日(水)
月曜、9月16日(火)休館
9:30〜17:30(入室は塀質の30分まで)


0 件のコメント:

コメントを投稿