2014年8月5日火曜日

色彩が与えられた幻の世界


















 夏の企画展放浪記in東京、次は乃木坂の国立新美術館で開催されている『魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展』です。これまで私が観てきた企画展の中でもベスト上位に食い込む展覧会でした。


 バレエ・リュスは、20世紀初頭に勃興し斬新なステージで一世を風靡しましたが、数十年で形を失った伝説的なバレエ団です。突出した才能を持ったダンサーのニジンスキーは舞踊の神とも呼ばれ、その後のバレエに大きな影響を与えました。


 展示室は間仕切りがほとんどないワンフロアで、低めの展示台の島に衣装を着せたトルソーが並んでいます。視線のずっと先までダンサーの幻が浮かんでいるようにも見えました。一部はケースに入れられていましたが、それ以外の衣装は、縫い目ひとつ、ビーズひとつ、ラメのキラキラまでも眼前にすることができます。数分ほどの映像でしか観たことのなかったバレエ・リュスのモノクロの世界に、突然色が与えられました。


 バレエ・リュスは主宰者のディアギレフのずば抜けたプロデュース力で、当時のヨーロッパにおける最先端の音楽、舞踊、ファッション、美術などのエッセンスを凝縮させた総合芸術といえます。まだ無名だった頃のシャネルやアーティストのマティスが衣装デザインに関わっていたことも知られています。マティスのデザインした衣装も展示されていました。オリエンタル趣味を取り入れたものとありましたが、スーフィーを思わせる神秘的な雰囲気もありました。この時代が荒々しい創造性にあふれていたことが衣装からだけでも分かります。

 なかでも布に直接ペイントを施した衣装が多くあったのが特に印象的でした。イメージを今すぐ形にしたいというような情動が伝わってきました。その大胆さは、布を織ったり加工したりする時間がもったいないと思っていたかのようなスピード感があります。作ってる人も楽しかったに違いなかったでしょう。躍る時に映えるようにデザインされた衣装が、そのままで人の心をつかむ力を持っている。私の脳内はうっとりと興奮のスパイラルでした。短くはかなく、夢のようなバレエ団だと思っていたバレエ・リュス。実際にはこんなに弾ける色彩を持っていたなんて。


 ミュージアムショップにはバレエ・リュスの歴史、ディアギレフ、ニジンスキーの自伝など、読みたい本がどーんと並んでいました。一気ににどーんと買ってしまいそうになりましたが頭を冷やして会場を出ました。まずは『ニジンスキーの手記 完全版』を読んでみたいです。訳はバレエの伝道師、鈴木晶さんです。


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魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展』
国立新美術館
2014年6月18日(水) - 9月1日(月)
毎週火曜日休館 (8月12日は開館)
10:00〜18:00 金曜日、8月16日(土)、23(土)、30日(土)は20:00まで











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