2015年8月16日日曜日

アムステルダム国立美術館だョ!全員集合


 遅ればせながらドキュメンタリー映画『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』を観ました。レンブラントの『夜警』、フェルメールの『牛乳を注ぐ女』などの傑作を所蔵していることで有名な、アムステルダム国立美術館の10年に及ぶ改修を追っています。粛々と進められる歴史的美術館の改修…なのかと思いきや、粛々なんてとんでもない、ゴタゴタに次ぐゴタゴタに振り回されっぱなしの舞台裏が明かされます。


 冒頭、巨大な重機がコンクリートの壁を噛み砕くシーンに不穏な音楽が流れます。美術館の再生という華やかな題材にしては違和感があるのですが、これは、大いなる不安の予兆なのでした。


 自転車が通れるスペースが狭い!意気揚々とエントランスの構想を語りはじめる建築家に、初っぱなから市民から反対意見が噴出します。これを皮切りに、大臣から景観保全の要請、度重なる建築案の変更、工事の中断、など難題が次々ふりかかります。そんな事態が起きるたび学芸員も建築家も、もちろん館長もてんやわんやです。でもなぜかそこにはコミカルさも漂います。始めは「美術館のコレクションは王室のものではない、市民のものですから、わはははは!」と、よく通る太い声で語っていた館長からついに、「納期に追われる方がよっぽどましだ!」という本音がこぼれます。この時点で彼の目はもう笑っていません。折衝ミーティングでは、(もうおうちに帰りたい…)という表情を浮かべているスタッフの顔にカメラが向けられます。混乱に乗じて自分のキャリアアップを密かに期待するハンサム学芸員も登場します。そんな中で「アジア館には金剛力士像を置きたいんだ。一週間家にこもって展示室の模型を作ったよ。40年後に『おじいちゃんがここを作ったんだよ』って孫にみせてあげたいな」というマイペースなアジア館部長のキラキラした瞳ったら!


 国立美術館の改修という歴史的な場面でスパイラルする、情熱と失望、あきらめとタメイキを、この映画は見事にすくいあげています。生きていれば必ずどこかで起きる、こんがらがった人間模様です。めでたしめでたしの大団円ではないけれど、みんなが望むエンディングではなかったかもしれないけど、私たちは日々途方に暮れながら生きていく。美術館に集まった人たちの表情が、そうやって人生は続いていくことを物語っています。



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