2008年4月28日月曜日

自らの視点に批判を

 
 アマゾンから届いたDr. Richard Sandellの『Museums, Prejudice And The Reframing Of Difference』を少しずつ読んでいます。ちょっと反則かもしれませんが、一番最後の「(Re)framing conversation」という章から読み始めました。

 ここではケーススタディなどと絡めて、博物館がどのように社会の偏見や先入観に関与できるか、について包括的に論じています。もともとDr. Sandellは、来館者と博物館の間には、社会で起こる偏見、(例えば人種、宗教、移民問題、セクシュアリティなどに対して)積極的に知識を得て会話を生むという強い力があると考えてたそうです。しかしその予想に反し、来館者は自分が偏見を持っているかどうかより、自分と他者の違いに対して戸惑い、葛藤を見せていることが分かったそうです。一方博物館では、多くの学芸員がバイアスを感じさせる展示を避けたいと思っており、特定の視点に立った展示を作ろうとすると制作側からの横やりが入る、という事実もありました。ここで彼は、偏った視点に立って語るのは博物館として相応しくない、と言って平等主義を説く人たちこそ、まさにその視点に固執している、と指摘しています。例として、自然科学博物館は環境(保護?)主義を支持し、来館者も環境に対してそのような考えを持つように誘導している、ということをあげていました。(p.177)

 ここには、博物館側のジレンマが感じられます。彼はこう書いています。「博物館の現場では、自分たちが『正しい』と信じる結論に来館者を誘導することに居心地悪く感じており、また批判的でもある。しかし、そこを来館者に委ねすぎると、偏見や先入観と向き合って自分自身の価値観や行動と照らし合わせることができなくなる。」(p.178) さらに彼は、Constructivism(構成主義)の限界について言及しています。Constructivismは博物館学、特に博物館教育でよく出てくる概念です。一方的にひとつの視点から来館者に教え込むという従来の教育に対して、個人の解釈や複数の視点を重視した教育の考え方です。しかし、Dr. Sandellは、ケーススタディとして取り上げた聖マンゴ宗教美術館を例に挙げ、いろいろな宗教コミュニティの個々の声や宗教にまつわる事物を取り上げているが、博物館側は自分たちが主張する、異なる宗教に対する敬意や相互理解の重要性に対して、否定的だったり批判するような意見を避けようとしている、と書いています。

 私も大学院にいた時、Constructivismの理論をあちこちの文献で見ましたし、自分のエッセイにも引用していましたので、この事実はかなり衝撃でした。特に、Dr. Sandellがテーマにしている偏見や先入観を問う展示に関しては、Constructivism的な見方では、対話や気づきを生みにくくしているということを指摘しています。来館者が無意識に、無批判に持っていた視点に疑問を投げかけつつ、前向きな対話ができるような場を作ることの難しさについて考えさせられました。

 ところで印象的だったのは、この本では主語の"I"を多用していることです。大学院の授業では、アカデミックな文章では"I"とか”my”といった単語をあまり使わないと教わったので、とても意外で新鮮に感じました。しかし同時に、先生個人の強い思いや、問題意識にとても密接しているように感じられて、ぐっと文章に引き込まれました。


 この本は、博物館学の専門書ではありますが、社会学や教育学に興味がある人にも意義深い内容なのではないかと思います。さらに読み進めていくのが楽しみであり手強くもあります。

2008年4月18日金曜日

美術館を三次元的に見る


 
 最近フランスに行った方から、お土産にケ・ブランリ美術館(MUSÉE DU QUAI BRANLY)のブックレットを頂きました。ケ・ブランリは、2006年にパリに開館した美術館で、アフリカ、オセアニア、アジア、アメリカの民俗学、人類学的な美術資料を扱っています。「展示は、作品が作られた社会文化的文脈に基づいている」(ブックレットより)ということですが、イギリスの大学院時代の友人や先生からは「美術品として扱いたいのか、人類学的に扱いたいのか、展示の軸がぶれていてあまり良いとはいえない。」という話を聞いたことがあります。評価は私自身が実際に見に行った時にすることにして、今回はこのブックレットに関して書いてみたいと思います。

 ジャン・ヌーベルが美術館建築を手がけたことでも話題になりましたが、ブックレットでは美術館ができるまでの5年間のプロジェクトを紹介する形になっています。シラク大統領の指揮による計画、建築コンペ(レム・コールハースやレンゾ・ピアノも出展していたそうです。)、基礎を掘る段階で見つかった遺跡の発掘、内装、庭園そしてコレクションと展示について紹介されていますが、展示の内容については全体の三分の一程のページしか割かれていません。建物とその周りの環境がどのように作られたかを、写真もふんだんに解説するのがこのブックレットの狙いのようです。ひとつの美術館ができるまでがコンパクトにまとめられていて、以前観た映画『動物、動物たち』を思い出させるようでした。

 ミュージアムショップには、展示についてのパンフレットなどもあるようですが、私はこのブックレットの方向性がとても魅力的に感じました。建築、造園、行政、など、普段美術館に行った時に見る位置からちょっとずれた場所から美術館を見る、という視点を思い出させてくれます。多分に政府のプロパガンダ的な思惑はあるにしても、美術館に関する知識を、文字通り立体的に得ることができるところが、とても博物館学的だと思いました。

MUSÉE DU QUAI BRANLYウェブサイト
Looking at the art gallery three-dimensionally

My boss went to France and brought back a booklet of Musee Du Quai Branly for me. This museum was open in Paris in 2006. It is about anthropological art works from Africa, Oceania, Asia and America. Although booklet says that the exhibits are based on the socio-cultural context that they were made, I've heard that the tutor and my classmate at the uni criticized it as they really don't understand how they want them to display. They said that the display seemed to be confusing that they show some works as art, but some as anthropological objects. Well, I would like to talk about it when I actually see them so I here would like to talk about the booklet itself.

The museum became famous, as Jean Nouvel has designed it. The booklet shows the 5 years project from the plan of President Chirac’s manifesto, competition of architecture (Lem Koolhaas and Renzo Piano were also the competitors.), the ancient ruins which were found when they were digging the site for the base of the building, interior design, garden collection and the display. I found it interesting that about collection and display were described in one third of the booklet. The aim of this seems to be to show how the museum building and the surrounding environment were made with variety of pictures. It reminds me of the film I saw a few months ago, “Un animal, des animaux” by Nicolas Philibert, as it tells us the process of which one museum has being made.

In the museum shop, there must have been some more booklets about the collection and display, but, I found this one is much more interesting. Usually, when we go to a museum or an art gallery, we look at art works or objects, though; we also could focus on the architecture, the garden, or administration of a museum to understand it more deeply. The booklet must have had some intensions to state governmental propaganda, but still, it reminds me of a viewpoint to look at one museum from a different angle which we usually ignore. I would say it is looking at a museum "three-dimensionally". It should be important to have several viewpoints to understand what museum really is.