2012年4月26日木曜日

著作権は続くどこまでも

 ここでトリビアです。映画『タイタニック』で、船が沈むシーンに出てきた有名な絵画があるのですがそれはなんでしょう。答えはピカソの「アヴィニョンの娘達」です。しかし実際にはこの絵画はタイタニック号と共に沈んではおらず、長年MoMAに展示されていました。ここで生じる著作権問題について、The New York TImes の"Art Is Long; Copyrights Can Be Longer(「アートは永劫に、著作権はそれ以上に続く」)"という記事が報じています。

 芸術作品の著作権は通常作家の死後70年間保たれ、それを管理する会社がいくつかあります。作品の著作権は所有している美術館やコレクターではなく作家にあり、葉書やTシャツとして複製する場合に許可を出すのは管理者や家族側です。これは今まで知りませんでした。記事によると『タイタニック』でピカソの作品が使われた時、管理会社を通じていくらかの料金が支払われたのですが、最近3Dとしてリバイバルした時にも再度使用料を監督に要求したそうです。また、画家バスキアの生涯を描いた映画『バスキア』では、実の父が反対したにも関わらず、監督がバスキアスタイルの作品を映画に使いました。メガヒットを見込んだ映画では、裁判沙汰になることを侵してでも作品の使用に踏み切る場合もあるとのことです。

 最近このブログでも話題にしたGoogle Art Projectの中でも管理会社から許可が下りず、幾つか削除した作品があったそうです。Google Art Projectにピカソの作品が使われていないのもそのためです。この問題についてはアーティスト側にもいろいろな意見があるそうで、沢山の人に見てもらえるチャンスと捉えるむきもあれば、権利を侵されることを懸念する場合もあるということを、Google Art Projectに関わる弁護士が語っています。

 ここで頭に浮かんだのは、最近よく聞くクリエティブ・コモンズ・ライセンスという著作権に関わるキーワードです。ある美術館でこの制度を取り入れて、展示室内の写真の撮影を許可した企画展があった覚えがあります。様々な大学の講義が聴けるiTunesUでもこのマークをよく見かけます。実はこの制度についてよく知らなかったので、日本の組織のウェブサイトを見てみました。それによると、作家自らが条件を設定した上で作品を自由に使ってよいと明示するツールだそうで、インターネット時代の新しい著作権ルールの普及を目指しているとのことです。作品のクレジットを表示することや、営利目的に使用しないことなど、ライセンスには幾つかの種類と組み合わせがあります。ネット上以外の作品にもこのライセンスを付けることができるそうです。私が美術館で見たのは個人のブログなどに使用を限定していたので、営利目的に使用しないというライセンスだったと思います。

 前出の弁護士が語るように、作家やその家族も含めて自分の作品が他の媒体でどのように使われるかについての思いは、それぞれであることが分かります。またクリエイティブ・コモンズが目指す著作権のあり方も、新しいメディアの発展に伴って生まれる課題です。私はどちらかと言えば、芸術作品は一旦世の中に出たら共有財産になると思っているので、様々な媒体に使われても良いという意見です。と言いつつ、媒体の種類やリミックスの仕方によっては良い気持ちがしないものがありそうです。沈んでいないピカソの絵が海に沈むというのも文脈から考えていかがなものか?と思いました。ちなみに『タイタニック』の3D版では、ピカソではなく版権の切れたドガの作品に入れ替えられたそうです。(実はこの作品も沈んでいません・・・。)

 このような映画が他にも沢山あるとしたら、古今東西映画のワンシーンで使われた作品を見つける、「映画の中の名画を探せ!」というようなクイズがあったら面白いかも。マニアックなアートファンが競い合ったりして。話題がそれましたが、芸術作品の権利とは何か、それを多くの人が共に享受することは何かについて考えさせられました。今後もこの動きを追ってみたいと思います。

2012/4/24
クリエイティブ・コモンズ・ジャパン ウェブサイト


2012年4月18日水曜日

セクシュアリティとアート、それにまつわるあれこれ

 今日は大人向けの話題です。ALLMEDIANYという情報サイトの記事で、NYにあるMuseum of Sexの企画展のオープニングが紹介されていました。この博物館については、以前NYに旅行した友人からパンフレットをもらって知っていました。秘宝館のようなものなのか?と思っていたのですが、本気の博物館でした。博物館のサイトを見ると、トップページに"History, Evaluation & Cultural Significance of Human Sexuality(人間のセクシュアリティの歴史、評価、文化的重要性)についての博物館と紹介されています。日本の春画なども含めて15,000点のコレクションやアーカイブがあり、研究機関としても充実しています。ミュージアムショップ(あんなものやこんなものを通信販売で買うことができます。)やバーもあります。詳しくは書いてありませんでしたが、入場できるのは18歳以上のようです。

 企画展は"F*CK ART"と"Universe of Desire"というタイトルで、性にまつわるアート作品が集められています。オープニングではnear-naked(「ほとんど裸」というのはど程度のものか気になります。)なウェイターが登場したり、趣向が凝らされた過激なフードが提供されたりしたそうで楽しげです。その雰囲気は「大人向けのびっくりハウスのよう」と表現されていました。

 この記事を読んで、4年前に書いたバービカンアートギャラリーの"Seduced: art and sex from antiquity and now"という企画展を思い出しました。この企画展は、過去から現代の美術品における性描写の歴史を追ったもので、こちらも来館者を18歳以上に限定していました。一方"F*CK ART"は現代作品が主なようです。記事や博物館のサイトでもいくつか作品を見ることが出来ます。実際に訪れてはいませんが、そこからは避け難い欲望の奥深さや、哀しみのようなものが伝わってきます。悪趣味と紙一重とも言えますが、見る人の価値観やセンスを問われる主題かと思います。「オープンな気持ちを持っていて、アートについてよく知っていて、セクシュアリティに興味のある人に見に行ってもらいたい。」と記事は締めくくられていました。

 日本でこのような博物館はまだ見たことがありません。議論の余地はありますが、あまねく広くではなく、限定した来館者のための展覧会というのも私は賛成です。美術館や映画のアーカイブ、自然史博物館などでMuseum of Sexのような企画の実現が可能なのではないでしょうか。そのオープニングレセプションがこの展覧会のようなら、私も是非招かれてみたいです。


Sexuality, art and etc.

Today's story is for adults. In the article, in an internet media ALLMEDIADIARY, they introduced the special exhibition in Museum of Sex in NY. I have known this museum from the brouchere one of my friends brought form NY. I guessed it makes jokes about sex; nevertheless, from the article and the website of the museum, it is a "genuine" museum. In the top page of the museum, it tells "History, Evaluation & Cultural Significance of Human Sexuality". Including some Japanese Shunga, there are about 15,000 items of collection, and they also have an archive. They work as a research foundation. There is a museum shop (You can buy some filthy items by email order.) and bar. They do not articulate, but it seems the admission allows over 18 year old.

The special exhibition of which title is F*CK ART". They pile up a variety of works related to sex and sexuality. In the opening reception, there were "near-naked" waiters serving, and there were sensational food, too. The writer described it as "Funhouse for adult".

When reading this story, it came across the exhibition that I have introduced before, "Seduced: art and sex from antiquity and now" in Barbican gallery, in London. This exhibition traced the history of expression in sex and sexuality. This also limited the visitors over 18. On the other hand, "F*CK ART" seems to be only contemporary works of art. You can see of the works form the page of the article and museum's website. I have not visited this exhibition, in fact, you could see seductive drive, and pathetic feeling though them. Some might think it is bad sense; however, it questions your sense of value and humour. The writer closed the article saying "I highly recommend it for the open minded, art savvy, and those with a general interest in sexuality (not just having sex).".
I have not found a museum of this topic in Japan yet. I bet it is because controversial issue. I personally agree with these exhibitions that are not widely welcome, limit visitors. The exhibition like Museum of Sex could be feasible in art galleries, film archives, or natural history museums. If the opening reception is like this, I would do like receive invitation card.

2012年4月14日土曜日

博物館の体験、再び


 
 
(English follows after Japanese) 
 
 以前紹介したGoogleアートプロジェクト(『博物館の体験とは?』2011.06.02をご参照下さい)が新しいフェーズに入ったようです。これまで北アメリカとヨーロッパの博物館、美術館を紹介してきたこのプロジェクトに40カ国の151の美術館、博物館が加わりました。日本のブリヂストン美術館、大原美術館、国立西洋美術館など6館を含むアジア、オーストラリアなどのコレクションも体験することができます。

 この記事をネットで検索してみました。すると幾つかのメディアで、インドでの幼少期の体験がこのプログラムを開発する原動力となったと語っていた、開発者のAmit Soodの言葉が載っていました。インドでは博物館が開いている時間も限られているし、行ける機会が少ないと語っていたSoodですが、今回はこう語っています「Googleアートプロジェクトはグローバル化しています。もはやこのプロジェクとは、メトロポリタン美術館に行きたいと思っているインドの生徒達だけのためではありません。国立デリー近代美術館を訪れたいと思っているアメリカの生徒達のためでもあります。」(The Independent "Ten more UK galleried join Google Art Project's virtual tours" 2012.4.3より)

 前回の記事でも書きましたように、このプロジェクトに対しては私の中で賛否両論があります。しかしSood氏の個人的な体験が、一貫してこのプログラムを支えてるという事実は説得力がありました。このプロジェクトがGoogleで可能になった背景については分からない部分があるのですが、一企業がこのように個人の使命感を掬いとって事業としている点が大変興味深く感じます。

参考サイト


What is museum experience?, again

Google Art Project (Please refer to "What is museum experience?" 2011.06.02.) seems to get into a new phase. This has presented outstanding museums in the States and Europe. Now, they add some more from Asia and Australia including Japanese museums such as Bridgestone museum, Ohara museum, National Western art museum.

I have googled newspapers of this project. In some articles wrote about Amid Soot. He is one of the engineers who has talked about his childhood experience in India. There were fewer museums than western countries and less opportunity to visit there. The article described ""Amit Sood, who heads up Art Project at Google, said the site “is going global” adding: “It’s no longer just about the Indian student wanting to visit Metropolitan Museum of Art in New York. It is now also about the American student wanting to visit the National Gallery of Modern Art in Delhi.”".

As I wrote, I am a little bit skeptical about the meaning of this programme. However, it is persuasive that Sood's personal experience drove him to get there. I do not know the background of this programme having been feasible. What interests me the most is how Google brought individual anecdotes into a project.

The Wall Street Journal: "Asian Museums Join Google Art Project" 2012. 4.10