2014年8月19日火曜日

アート、開いてました!

夏の企画展in東京放浪記、最後は東京国立近代美術館の『現代美術のハードコアは実は世界の宝である』展です。この企画展のチラシを見たとき、いつもの国立近代美術館とは思えない派手さに度肝を抜かれました。キラキラのモチーフに囲まれた金ぴかオブジェ。これはマーク・クイン作のケイト・モスをモデルにした彫刻です。さらに美術館の前庭には「だ、大仏?!」と見まごうほどに巨大化したケイト・モスの彫刻が展示されています。

東京を訪れるにあたって、この企画展を見に行くことは迷わず決まっていました。電子マガジンのSYNODOS(2014.07.05 Sat)で本展の企画をした学芸員の保坂健二朗氏のインタビューを読んで「この作品はなぜこの価格で取引されているか、その価値はどこからきているか」という点にフォーカスした、キュレーションが際立っている企画展だと感じたことが大きく影響しています。

ハードコア展は台湾のヤゲオ財団のコレクションから構成されていています。作品は、台湾の電子部品メーカーのヤゲオのCEO、ピエール・チェン氏が収集したものです。内容は中国と西洋の近現代絵画、彫刻、写真作品などで、マーク・ロスコ、アンドレアス・グルスキー、アンディ・ウォーホル、蔡国強など、現代美術界で知られていない人はいない、というクラスの作家ばかりがそろっています。

また、いつもならさらっと通り過ぎてしまう展覧会の入り口パネルにも注目しました。お寿司のネタを例にして鑑賞のヒントが書かれています。ネタ(美的価値)と時価(市場価値)との関係性を考え、ネタが本当においしいか、時価が自分にとって適切か、それが他の国ではどうなのか、について考える企画展だとまとめてあります。時に美しく感じられる、また時には恐怖や不快感を催すような作品の価値は、誰が、どのように決めるのか、ヒントが書かれています。

SYNODOSのインタビューでは、美術品について「動産だけど消耗品でなく、ひょっとすると市場価値が上がるかもしれないというものはほかにありません。(略)経済や市場というものがある種の合理性で動いていると思われている中で、よくわからないロジックで動いている世界があるっていうのは、なんか、救われるなあという気がするんです。」と保坂さんは言っています。美術作品は美術的に価値があるから意味がある、というだけではなんとなく詭弁に聞こえるものが、別の論理が働いていることを知れば、「価値」ってなんだろうというところから美術品と向き合えると感じました。

さて、このゴージャスなコレクション展、チラシには「『○○コレクション展ってあんまり面白くなさそうだよね』という人もきっといることでしょう」と書いてありましたが、いやいや、そんなことはありませんでした。コレクション展だからこそばったり再会できることがあるのです。それはツェ・スーメイの作品でした。解説パネルを見る前に気がつきました。展示室の最後の方、碁石をモチーフにした写真です。彼女は数年前に水戸芸術館まで企画展を見に行った作家です。

東京国立近代美術館での展示は24日で終わってしまいますが、このあと名古屋市美術館、広島市現代美術館、京都国立近代美術館へと巡回します。東京で見逃した方は、どうぞそちらへ!















東京国立近代美術館(〜8月24日)
10:00〜17:00(金曜日は10:00〜20:00)休館日月曜日
名古屋市美術館、広島市現代美術館、京都国立近代美術館を巡回

















2014年8月5日火曜日

色彩が与えられた幻の世界


















 夏の企画展放浪記in東京、次は乃木坂の国立新美術館で開催されている『魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展』です。これまで私が観てきた企画展の中でもベスト上位に食い込む展覧会でした。


 バレエ・リュスは、20世紀初頭に勃興し斬新なステージで一世を風靡しましたが、数十年で形を失った伝説的なバレエ団です。突出した才能を持ったダンサーのニジンスキーは舞踊の神とも呼ばれ、その後のバレエに大きな影響を与えました。


 展示室は間仕切りがほとんどないワンフロアで、低めの展示台の島に衣装を着せたトルソーが並んでいます。視線のずっと先までダンサーの幻が浮かんでいるようにも見えました。一部はケースに入れられていましたが、それ以外の衣装は、縫い目ひとつ、ビーズひとつ、ラメのキラキラまでも眼前にすることができます。数分ほどの映像でしか観たことのなかったバレエ・リュスのモノクロの世界に、突然色が与えられました。


 バレエ・リュスは主宰者のディアギレフのずば抜けたプロデュース力で、当時のヨーロッパにおける最先端の音楽、舞踊、ファッション、美術などのエッセンスを凝縮させた総合芸術といえます。まだ無名だった頃のシャネルやアーティストのマティスが衣装デザインに関わっていたことも知られています。マティスのデザインした衣装も展示されていました。オリエンタル趣味を取り入れたものとありましたが、スーフィーを思わせる神秘的な雰囲気もありました。この時代が荒々しい創造性にあふれていたことが衣装からだけでも分かります。

 なかでも布に直接ペイントを施した衣装が多くあったのが特に印象的でした。イメージを今すぐ形にしたいというような情動が伝わってきました。その大胆さは、布を織ったり加工したりする時間がもったいないと思っていたかのようなスピード感があります。作ってる人も楽しかったに違いなかったでしょう。躍る時に映えるようにデザインされた衣装が、そのままで人の心をつかむ力を持っている。私の脳内はうっとりと興奮のスパイラルでした。短くはかなく、夢のようなバレエ団だと思っていたバレエ・リュス。実際にはこんなに弾ける色彩を持っていたなんて。


 ミュージアムショップにはバレエ・リュスの歴史、ディアギレフ、ニジンスキーの自伝など、読みたい本がどーんと並んでいました。一気ににどーんと買ってしまいそうになりましたが頭を冷やして会場を出ました。まずは『ニジンスキーの手記 完全版』を読んでみたいです。訳はバレエの伝道師、鈴木晶さんです。


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魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展』
国立新美術館
2014年6月18日(水) - 9月1日(月)
毎週火曜日休館 (8月12日は開館)
10:00〜18:00 金曜日、8月16日(土)、23(土)、30日(土)は20:00まで











2014年8月3日日曜日

資生堂はいつも本気だぜ!

 







 東京都立美術館の内覧会にでかけた足で、都内の美術館の企画展を廻ってきました。いまは遠方に住んでいるため熟考に熟考を重ねた結果、ベストルートは資生堂ギャラリー、国立新美術館、国立近代美術館に決定。というわけで「夏の美術館放浪記in東京」第一弾は銀座の資生堂ギャラリーです。現代美術活動チーム目【め】による展覧会『たよりない現実、この世界の在りか』を観てきました。


 詳細を紹介するとネタバレ同然なので内容はほとんど書けません。プラス、下世話なことなのですが、展示室に入ってすぐ「うわ。これはお金かかってる」と戦きました。新しい才能を育てる資生堂のセンスのよさ、気前の良さにしびれます。一企業のメセナ活動としては飛び抜けています。とにかく資生堂はいつも本気だぜ!という気概を改めて感じて私の背筋もシャキーン!と伸びたのでした。


 タイトルのとおりこの展覧会は「たよりない現実」を私たちに見せてくれます。心が躍るファンタジーのようではなく、いつまでも醒めない夢のような形で。


 資生堂ギャラリーには何度も訪れたことがありますが、その記憶が思い出せないぐらい空間の様子が変わっていました。入り口さえも分からなくなっていて穏やかならぬなにかに引き込まれます。入ったら最後、闇に視覚が慣れず方向が分からなくなってきます。資生堂ギャラリーって、こんな狭かったかな、いや、広かったかな、と頭の中がぐるぐるしました。


 エレベーターで地上階に戻って、改めて念入りなつくりに感嘆すると同時に背中に冷や汗をかいていました。「さっきの場所は、本当に存在したのかしらん…?」と資生堂ビルを出たあとにもう一度ガラスの向こうをのぞいてみたくなりました。このとき、『たよりない現実、この世界の在りか』の意味がゆっくりと私の身体にしみ込んできました。

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『たよりない現実、この世界の在りか』
資生堂ギャラリー
2014.7.18(金) - 8.22(金)
11:00〜19:00(日・祝 11:00 - 18:00)
毎週月曜休 (7/21も休館)



2014年8月1日金曜日

東京都美術館『楽園としての芸術』展ブロガー★ナイト








 夕暮れの東京都美術館、誰もいなくなった館内に入ります。全ての来館者が退館した後です。ロビーやミュージアムショップもいつもと違って照明が暗く落とされています。館内を進みエスカレーターで地下階に降りると『楽園としての芸術』展の入り口が次第に見えてきて、談笑したり写真を撮ってりしている音が聞こえてきました。


 この日、東京都美術館で企画展『楽園としての芸術』展のブロガー特別内覧会が開催されました。ブログで紹介できる人が招待されたイベントです。私も招待されたブロガーの一人です。


 『楽園としての芸術』展は東京と三重にある「アトリエ・エレマン・プレザン」、鹿児島にある「しょうぶ学園」で制作されたダウン症や知的障害のある人びとの作品を展示しています。


 東京都美術館は2012年、2年間にわたるリニューアル工事の後「創造と共生の場=アート・コミュニティ」「生きる糧としてのアート」「心のゆたかさの拠り所」というキーワードをもとに新しいミッションを掲げました。今回の企画展はこのミッションの体現を目指したもので、学芸員の方が全国の障害者施設やアトリエなどを訪ねて出会ったのがアトリエ・エレマン・プレザンとしょうぶ学園です。














 
 展示されているのは絵画や立体などの純粋な造形作品、工芸作品、工芸の要素が含まれる作品などさまざまありました。中でも私に強い印象を残したのがしょうぶ学園の、より工芸に近い作品です。このままカードにして売っていたら欲しいな、と思わせる絵、刺繍や布を縫い付けてリメイクし機能から自由になったシャツ、木工の皿や入れ物が紹介されています。しょうぶ学園は知的障害者の作業所として下請け作業を行なう施設でしたが、30年近い時間をかけて一人ひとりのしたいことはなにかを考え、創造性のある作品を作れるような環境を整えていきました。その長い試行錯誤の後にこのような作品が生まれるようになりました。


 ひとつの展示室にまとめられたしょうぶ学園の作品の中で、いちばん光を放ってたのが奥にある3つの小さなガラスケースでした。カラフルな布の切れ端が入った小瓶と平たいスチール缶、作者のものと思われる道具箱が展示されています。布は1cmにも満たない小さなもので、はっとする色使いで玉結びが施され重ねてられています。道具箱はクッキーが入っているような細長い箱です。はさみは使い古されて指を入れるところが壊れ、テープで補修されています。その脇にはくるくるに巻かれている糸束。持ち主の創作の過程が垣間見えてくるようでした。どれも特別なものではないのに、どれが欠けても完成されない、小宇宙ともいえる深みを感じました。背景を知りたいと思い学芸員の方にお話を聞きいたところ、道具箱は実際に使っているものだそうです。作者は50代ぐらいの女性でいつも肩幅ほどの狭いスペースで作業をしており、驚くべきことに糸くずが全く出ないんです、と仰っていました。さらに素敵なエピソードがあって、平たい丸缶に布切れが入った作品は、あるとき施設の職員の方に彼女から「プレゼントです」といって渡されたものなんだそうです。つつましく細かい部分にこそに誠実さや創作の喜びが表れているように見え、ものを作る人でなくても共感できるのではないかと感じました。










 


 美術館から出ると空はすっかり暗くなっていました。目の前に見えたのがこの写真の風景。外から赤い壁と並んだ椅子が見える、この美術館で私が好きな場所のひとつです。最後まで心満たされる夜の美術館でした。






















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『楽園としての芸術』展 Art as a Haven of Happiness
東京都美術館 ギャラリーA・B・C
2014年7月26日(土)〜10月8日(水)
月曜、9月16日(火)休館
9:30〜17:30(入室は塀質の30分まで)