2008年11月22日土曜日

アートと街とキュレーター

 ブリティッシュ・カウンシルで行われた「アートと街の新しい可能性〜英国フォークストン・トリエンナーレのキュレーターを迎えて〜」というトークを聞きにいきました。ゲストであるキュレーターのアンドレア・シュリーカー氏は、これまでロンドンのギャラリーやプロジェクトに関わったあと、この美術展のキュレーターとして参加しました。

 今年初めて開催されたこのトリエンナーレは、人口が5万人に満たない英国南東部海沿いのフォークストンという街が舞台でした。まさに舞台といえるほど、街と住民とアートが絡み合った美術展であると感じました。残念ながら当日ちょっと遅刻してしまったため、美術展の概要や経緯については聞き逃してしまいましたが、参加作家とその作品からはフォークストンの社会的課題と絡めた構成が分かりました。例えば、年金生活者とその犬たちをテーマにした作品、第一次世界大戦での犠牲者(フォークストンはフランスに面した港町なので、ここから戦いに赴く兵士が多かったようです。)の数だけナンバーを打った石を、芝生に敷き詰めた作品、街の核となっていた港を展示空間に選んだ作品など。特に私が面白いと感じたのは、トレイシー・エミンというイギリスの作家です。彼女自身フォークストンの近くで生まれた作家で、今回フォークストンで問題になっている10代の妊娠をテーマに取り上げました。赤ちゃんの服や靴下、靴、ぬいぐるみなど本物そっくりの形をブロンズで作り、街の公園や駅のホームなどに配置しました。さらに、学校教育から外れてしまった子供たちのための教育プログラムも企画されたそうです。そういったこともあってか、屋外に置かれたこれらの作品が若者によって壊されたりすることは全くなかったと、シュリーカー氏は語っていました。

 参加者の質問も、実務的な課題についてのものが多く充実していました。例えば、小さな街で現代アートの展覧会を開催する、という事態に住民からの拒絶はなかったのか?50万ポンドもの資金をどうやって確保したのか?これだけの規模の美術展を開催するまでのタイムスケジュールは?などなど。最初の質問に関しては、住民の”awareness raising(意識を高めること)”が必要で、そのために教育プログラムが重要だったと彼女は答えていました。街ひとつをフィールドとして、美術展を開催するには時間と軸のぶれないテーマ設定とそしてもちろん資金がとても重要だということを再認識した機会でした。シュリーカー氏の「キュレーターにとって、街ひとつを美術展として企画できる機会はめったにないことだ」という言葉もとても印象的でした。



2008年11月2日日曜日

視点への刺激



 

 五反田の5TANDA SONICで行われている「プロトタイプ展」を観に行きました。去年に続いて2回目となる若手デザイナーによるプロトタイプ=試作モデルの展覧会です。主催者の芦沢啓治氏(自身も照明器具を出展)は、プロトタイプとは言わず「何か面白いものない?」とデザイナーに声をかけてこの展覧会を作っていったとのこと。私の仕事はデザインとは全く違うジャンルなのですが、発想や物事の捉え方に新たな刺激を受けるこういった展覧会は機会があると観に行きます。この展覧会に出展しているのは、インハウスデザイナーもフリーのデザイナーもいて、70年代から80年代前半生まれと大体私と同じ世代です。

 今回は、純粋に私が好きだと思ったものを紹介します。まずは寺山紀彦氏の「floating flower」という花器。水盤がついており、散った花びらも楽しめるという趣旨です。お花見に行った時、池の上に散る花びらから発想を得たものだそうです。この気持ちに共感できるし、それを形にした白い陶器の慎ましさも気に入りました。

 それから、岡安泉氏の照明器具「float」。天井から吊るされた展示版の形に添って、光が落ちてくる照明器具です。床には展示版のふちと同じ形で細く光が映っています。こっそり展示版を揺らしてみたら、光もついてくる!不思議!展示盤のみに光が照射されるように、光源がレンズで制御されているそうです。とても詩的。

 もうひとつは山中裕一郎氏の「CH-BED-AIR」。これは説明するのがとても難しいオブジェクトです。一見体の形に添ったソファーにも見えるのですが、それにしては質感が固そうです。解説を見ると、スポーツの様々な姿勢を受け止める装置だそうです。実際にどう使うか描かれたスケッチを見てなるほど!と思いました。これはもう、形のシャープさと、スポーツという視点から身体を支える装置を形にしたという切り口にシビレました。
 因に5TANDA SONICはデザイン会社A.C.Oが運営しています。これからも応援していきたいギャラリーです。

5TANDA SONICウェブサイト