2014年6月28日土曜日

海外美術品等公開促進法


 先日とりあげた台北國立故宮博物院について、「日本政府が海外から貸し出された資料の差し押さえを防止する法案を制定した」と書きましたが、法律の名前までは確認しきれませんでした。ちなみにAFP通信とWall Street Journalでこれについて言及していました。


 気になっていたところ、毎日新聞の記事で報道されているのをみつけました。(あ、この展覧会のスポーンサーでもある毎日新聞、展覧会名を「台北・故宮博物院の特別展『神品至宝』」と書いているのがちょっと苦しいところ)。


 2011年3月に設立した「海外美術品等公開促進法」という国内法で、国際文化交流の視点から公開が必要と考えられる海外の美術品等について、文部科学大臣が指定するところにより強制執行等ができなくなるというものです。絵画、彫刻、工芸品、また化石や希少な岩石、鉱物、標本といった学術上すぐれた価値があるものも含まれています。文化庁のサイトで公開しているパンフレットによると、この法律によって、海外の美術品所有者の不安を取り除き、日本で安心して出品してもらうことを可能にする、と書いてあります。


 毎日新聞の記事では、この法律は、台湾からの要請で台北故宮博物院展開催のために制定されたと書いてあります。これまでも外国政府が所有する美術品に関する法律がありましたが、国連に加盟していない台湾には適用できませんでした。今回の企画展では、中国との外交関係が展覧会名に影響したのではないかとの声も聞こえました。そこは新法の中で「文部科学大臣は、指定をしようとするときは、外務大臣に協議しなければならない(第三条-3)」という一文があり、今回の企画展開催前にも外務省が中国に非公式に打診をしたそうです。そうしたところ「賛成はしないが、反対もしない」という中国側からの感触を得て開催に至ったそうです。


 軍事や領土や人権など政治的な問題は外交の専門家に任せて、文化交流は独自にすればいい、と、のどかに思っていましたが、文化交流もcultural diplomacy(文化外交)であり、政治的な問題とは切り離すことはできません。あの後も、別の台湾人の友人とこの話題でチャットをしました。とりあえず、政治問題は友人関係とは別ってことで、と前置きしつつ、お互い母国語でない言葉でこの話題で話をするのは難しいなーと、どっと疲れが押し寄せました。とはいえ、もしこの問題が起こっていなければ、私は海外美術品等公開促進法のことも知ることはなかったでしょう。そうやって世界は広がって、いや、広げていくのだ、というポジティブな気持ちにもなったのでした。







2014年6月24日火曜日

「國立」問題をかんがえる


 今月24日から東京国立博物館で「台北 国立故宮博物院ー神品至宝ー」展が始まります。

 私がこの展覧会の問題を知ったのは21日(土)。ツイッターでの美術関係者、国際関係に詳しい人たちの投稿からでした。日本側がポスターなどのプロモーション媒体に「國立」を入れていないということが発覚したことが問題の発端でした。これを台湾メディアが報道したことで、22日午前0時までに正式名に修正しなければ、展覧会を中止すると台湾の馬英九総統が抗議したというもの。博物館側は正式名称を表記していますが、スポンサーである日本の新聞社やテレビ局が作成したポスターなどに「国立」の表記がありませんでした。日本は台湾を国家として認めていないために、大型企画展のスポンサーであるメディアが報道に準じた表記をした対応がもとになっているという背景があるようです。また、台湾と中国両方に故宮があり、どちらが國立を名乗るかでも両者で問題になっているということ。展覧会は無事に始まりましたが、台湾側の名誉団長として来日予定だった馬英九総統夫人は23日(月)のオープニングには参加しなかったそうです。

 ツイッターでは投稿をまとめている人もいて、なんとなく状況は分かるのですが、発言している人が何者か分からない場合があるのが問題です。何が起こっているのか、納得できるものをみつけてみることにしました。

 まずは問題を知った当日、台湾人の友人に聞いてみました。彼女はイギリスの大学院で博物館学を学んだ時のクラスメイトです。「文化交流が台湾と日本との間の外交問題でこじれているようで悲しい」と言ったところ「これは台湾の博物館の中でも一番重要な課題で、そもそも中国から台湾に博物館資料を持ってきた時点から始まっている。政府が名称について対外的にきちんと説明していないからややこしくなっている。個人的な意見だけど、これは政治的な問題だと思う」という返事がきました。ツイッターやブログを見ると「日本が不適切な対応をして台湾がおかんむり。日本の対応が悪すぎ。」というニュアンスで書かれているものが目立っていたり、記名の記事でもスポンサーの微妙な立場をにおわせていたりしていたので、一人の意見とはいえ、台湾側にどんな事情があるのかが分かりました。

 次に海外のメディアがどのようにこの問題を書いているかを調べてみました。東日本大震災で原発事故が起こったとき、海外の報道を見ていた方が状況がつかめた、と言っていた人がいたので、今回はそれをまねしてみました。23日(月)にGoogle newsでトップに出てきた、日本と台湾以外のメディアの報道をざっと読んでみました。私が選んだのは香港のSouth China Morning(南華早報)、AFP通信、Wall Street JournalそしてABC Newsの4つです。偏りがなるべくないようにするにはもっと媒体の種類を広げた方がよいのですが、私の能力の限界ではここまで。

 どれもおおむね事実を淡々と伝えている印象でした。主に、今回の問題が起こった発端の出来事、台湾が故宮博物院を作った経緯、現在の台湾と中国の関係、の三つが書かれていました。私が読んだ中ではAFP通信の記事が一番分かりやすかったです。馬総統のスポークスウーマンが取材に答え、日本が台湾側に謝罪し「國立」を入れるという電話を受け取ったが、事態が急だったので夫人の来日は見送った、というコメントで今回の問題は決着したと書いています。また、日本の立場としては、外交面では台北よりは北京とのつながりが深いながら、商業などでは台湾とのつながりは深い、また1895年から1945年まで台湾は日本の植民地であった、というところまで言及しています。興味深かったのは、故宮の資料を日本に貸し出した場合、中国に差し押さえられるのを台湾が懸念していたという点です。しかし2011年、海外から貸し出された資料の差し押さえを防止する法案を日本政府が通したことで、日本での展覧会を躊躇していた台湾が今回の展覧会の開催を決めたということです。

 台湾は中国の一部と主張している中国と、台湾を国家として認めていない日本、という長い歴史の流れの一つとして今回の問題が現れたようです。

 とりあえずここ数日で私が把握できたのはここまでです。







2014年6月10日火曜日

ミュージアムグッズ考


ミュージアムグッズ考


アメリカで起こった9.11テロ事件の記憶を残すため、5月15日に9/11メモリアルミュージアムがオープンしました。ツインタワーの跡地に残された遺物や遺構に、間近にふれられる博物館になっています。


ウォールストリートジャーナルのネット版(2014/5/28)によると、ミュージアムショップが議論を呼んでいるそうです。


このニュースを読み始めた時点で私は不穏なものを感じました。
ここで取り上げられていたものは、ミュージアムのショップで販売されている陶器のプレートです。アメリカの地図上の、テロリストが攻撃した場所にハートマークがついたデザインになっています。テロが起こった場所で売られるには不謹慎であるという声が上がったそうです。気になって、ほかにもなにがあるかオンラインショップを見たところ、おどろきのアイテムがいくつかありました。国旗がデザイン化された、愛国心を表すアイテムはまだ理解できますが、「9/11」の文字が入ったTシャツ、トートバッグなどは戸惑いました。お土産でもらったら?エコバッグとして使う?「9/11」とプリントされているバッグを?しかし、陶器のプレートは別として、需要があるからこういったものも売られているとも言えます。


この記事で思い出したのは、以前にもこのブログで書いたイギリスのImperial War Museum Northです。日本で育って教育を受けたものとしては、これが戦勝国というものか、と思わせるアグレッシブな展示内容に驚愕したものです。このミュージアムのショップをネットでもう一度調べたところ、本やDVDはもちろんですが、カモフラージュペイントや戦車の模型など、子供向けのグッズが充実していました。女性、男性向けのジュエリーもいくつかありました。彼氏からもらったらちょっと空気が微妙なことになりそうです。それからチョコレートバーやお菓子なども。(誰向け?)。厳粛な気持ちで展示室を出たとたんになんていう品揃え!結構にぎわっていたことを思い出しました。


記事では、オクラホマシティーの爆弾テロ事件のメモリアルミュージアムや、パールハーバーのブックショップで売られているグッズについても言及されていました。パールハーバーのブックショップの運営者によると「手に取った人が気まずい思いをしないかどうか」を商品の基準としているそうです。こちらもネットで調べたところ(ネットって便利!)キーホルダー、マグカップ、しおり、記念コイン、ポスターなどなど、オンラインショップはなかったので詳細はわかりませんでしたが、退役軍人やその家族などがターゲットなのかな、という雰囲気でした。


日本ではどうでしょうか。テロに関する博物館はなさそうですが、広義にとって戦争をテーマにしたところでは原爆資料館がまず頭に浮かびました。ネットで見つけたのものでは、資料館で売っているのかはわかりませんが、公益法人広島平和文化センターが販売しているもので、原爆ドームのモチーフが入ったTシャツや鳩のモチーフを使った平和関連のグッズ、一筆せんなどがありました。個人的には、メッセージ性が強すぎるものは使いにくいと感じます。


ミュージアムショップに求めるものは人それぞれで、物議を醸すようなものは売られていないと思っていました。お土産一つで複雑な思いを引き起こすこともありうると思うと、買っていいかどうか躊躇する場面もあるかもしれません。ミュージアムの資料だけでなく、ミュージアムグッズという視点から、ものに対する価値観や倫理観を見ることもできそうな気がします。博物館や美術館の中でも、あまり深く考えたことがない場所でした。これからちょっと気をつけてみていきたいと思います。