2009年5月7日木曜日

メイプルソープとコレクター

 渋谷の小さな映画館で『メイプルソープとコレクター』という映画を観ました。よく下調べもせずに、メイプルソープについてのドキュメンタリーだと思って行ったのですが、公私ともに写真家メープルソープのパートナーであったコレクターについての映画でした。

 彼の名はサム・ワグスタッフ。アメリカの上流階級に生まれ、現代アートの学芸員として成功し、写真のコレクターとしてひとつの価値観を作り上げた人物です。個人のドキュメンタリー映画としてはやや茫洋としており、あまりおすすめしませんが、とかくセンセーショナルな写真家として人々の記憶に残るメープルソープの傍らで、ワグスタッフが大きな影響を与えていた(作品へも、そして金銭的にも)ことを初めて知ったのは驚きでした。彼やメープルソープを知る人々が次々にスクリーンに現れるのですが「ロバートはサムのお金にしか興味がなかったのよ。」などと言う人もおり、華やかなアート界の住人たちの寒々しい一面もまた印象的でした。晩年は写真のみならず銀製品の蒐集も行っていたそうですが、彼は全てを死の直前、ゲティ財団に売却しました。それらはゲティミュージアムでも公開されているようです。いつか、彼の美意識を追体験しに訪れてみたいと思っています。

『メープルソープとコレクター』公式サイト


2009年5月6日水曜日

ツェ・スーメイ展

 水戸芸術館まで、「ツェ・スーメイ」展を観に行きました。山に対峙してチェロを弾いている後ろ姿を映した展覧会のポスターを観た時から、これはぜひとも観に行かねば!と思った展覧会です。
 ツェ・スーメイはイギリス人ピアニストの母と、中国人バイオリニストの間に生まれたルクセンブルグ出身のアーティストです。職場の人たちと展覧会のチラシに載っていた作家自身の写真を見て「彼女はこの世のものとは思えないような、妖精のような雰囲気だね。」と話したのですが、まさに作品も神話に出てくる精霊のような趣のあるものでした。身の回りの細々した事柄を顕微鏡で見るように、一つひとつの事象をミクロな世界に突き詰めて、物語を紡ぐような、個人的でありつつ普遍的なものを感じました。私が気に入った作品は、葉が落ちた木々に寄生している宿り木を音符に見立てた映像作品『ヤドリギ楽譜』と、猫の肖像写真と、猫が鳴らす喉の音を録音した『不眠症の治療』(このタイトルにニヤリとしてしまいました。)です。

 展覧会を見ながら、何故か別の現代美術作家、マシュー・バーニーのことを思い出しました。作風や雰囲気は全く違うのですが、個人の想像力によって生み出された壮大な世界を、皆の目に見える形にする、という点で、共通するものを感じました。ツェ・スーメイが精霊だとすれば、マシュー・バーニーは半身半獣のケンタウルスのような、同じ世界に生きる想像上のいきものとでも言えるかもしれません。

 ゴールデンウィークの終わりにとても心満たされる展覧会を見た思いがしました。

水戸芸術館「ツェ・スーメイ」展ウェブサイト