2014年3月16日日曜日

PLAY with Soundscape 音風景の可能性

















 茅野市美術館へ「PLAY with Soundscape 音風景の可能性」のオープニングを観に行ってきました。地域の様々な場所で収集された音のインスタレーション、ダンスとのコラボレーション、音の作品公募など、音風景を主題にした企画になっています。
















 
 私が今日観たイベントはダンスと音のコラボレーションです。Monochrome Circusというカンパニーが、茅野で収集された音にインスパイアされて作った作品で、美術館空間全体が舞台となります。はじめに観客が集められたスペースは七、八十人ぐらい埋まっていました。チラシやウェブのデザインを見ると若者向けの印象がありましたが、年齢層は小さな子ども連れから年配の方まで意外にも多岐にわたっていました。

 観客は向かい合う形で壁を背にして座り、その間の空間でダンサーが踊るという構成でした。この会場で、身じろぎもせず集中して観ていた小学校三年生ぐらいの女の子が私の目を引きました。これぐらいの年齢にはちょっと長いかもなーと思ってみていましたが、子どもだからといって大人があれこれ先回りする必要もないのでしょう。まあ、小さいときからいろいろ観ると、いいものがちゃんと判断できるようになるからこういうところには来ておいた方がいいよ。というのは余計なお世話なつぶやき。

 会場を出て展示室やロビーでもダンスは続きました。ガチッとした様式美の空間で踊られるダンスが好きな私にはすこし散漫だったのですが、目の前のダンサーに反応して大はしゃぎする幼児もいたのは微笑ましい風景でした。

 前回書いたくらもと古本市と同じように、この企画も地元をテーマにしていてそのこじんまりしたところに無理がないと感じました。だからといって閉鎖的な世界かというとそうではなく、いいあんばいに地元愛が育まれているように見えます。今日の会場では、このイベントを見に来たのではなさそうな着物姿の子どもたちが興味深げに覗き込んでいたのが印象的でした。別会場で行われていたなにかの発表会に来ていたようです。普通のホールで観るようなダンスとは違った親密な空気がそこに生まれていました。

(ロビーで続くダンス、そして二階から覗き込む着物姿の子どもたち…)



2014年3月12日水曜日

蔵元めぐっていい本探し

 二月の寒空のもと、中央線上諏訪駅近くの五つの酒蔵で行われた「くらもと古本市」に行ってきました。


 駅から徒歩十分圏内に舞姫、麗人、本金、横笛、真澄というの五つの酒蔵があり、近隣の古書店がそれぞれテーマにそったセレクションの古本を出店しています。お酒や信州に関する本を扱った蔵元や、本以外にもはがきやしおりなどの紙モノ、地元ブランドの服を販売している蔵元もありました。私は参加できませんでしたが、本の修理やアルバムを作るワークショップもあったそうです。


 駅の観光案内所で古本市のリーフレットとマップをもらってぶらぶらしてみると、平日にもかかわらず、家族連れや若いカップルなどがこのイベントを目指してきていました。どの酒蔵も入り口に酒樽を積んであったり杉玉が吊るしてあったり、いい雰囲気でした。もちろん試飲もできて魅力的だったのですが、五つも行ったり来たりしていたら正体をなくしそうだったので、そこは我慢…。


 実は駅前にあったデパートが2011年に閉店していたことを知らなかったので、駅を出たときにずいぶんと風景が寂しくなったと感じました。こういった駅前の空洞化は、大型店舗出店などで全国の地方都市でも少なくないと思います。そういうあたりがいろいろ、複雑な思いでしたが、このイベントが気負いなく地元の産業とつながっていることに好印象を覚えました。小規模であったことも理由かもしれませんが、よくある街全体を盛り上げよう!的な、気合いでとりあえず人がくればいいというスタンスは感じませんでした。リーフレットや蔵元の前に置かれたサインなどのデザインも統一感があり、押し付けがましくないところもよかったです。蔵元の方も作家ものの酒器を置いている店が併設されていたり、昔の雰囲気を残した作りになっていたり時代に合ったテイストを加えているところもありました。


 日本酒と古本という、ターゲットが絞られているイベントのように見えましたが、東京のように大都市でなければ、多くの人に発信できるものを目指すより、ニッチなイベントが複数ある方が長続きするのかもしれないと思いました。


 このくらもと古本市は今回で三回目で、次回は秋だそうです。今回は本にばかり目がいってしまい、肝心の日本酒は買わずに帰ってきてしまいました。次はぜひ試飲もして美味しい日本酒を見つけたいと思います。







2014年3月11日火曜日

コンテンポラリー・ダンスを語ってごめんなさい!

 近所の図書館には、新聞の書評で取り上げられた本を集めたコーナーがあります。一通り見るとあまり間違いのないセレクトができるので、時間のないときにはここだけチェックすることがあります。


 この日も時間がなく書評コーナーにざっと目を通していたとき、刺激的な背表紙が目に入りました。乗越たかお氏の『どうせダンスなんか観ないんだろ!? 激録コンテンポラリー・ダンス』です。奥付によると初版は2009年、著者は舞踊評論家とのこと。ひっくりかえして目次をみると「第一章 私の偏愛するダンス」「第二章 どうせダンスなんて観ないんだろ!?」「第三章 乗越たかお激論集 アレ的なナニか」と続き、本気なのかよくわからん、と思いつつ借りてみてびっくり。コンテンポラリー・ダンスが好き、とか吹聴しているのにこの方の本を読んでなくてすいませんでした!と平謝りしたいような充実した内容でした。語り口はカジュアルですがはっ!と膝を打つような的確な解説になっています。雑誌などの連載を集めた本なので、当時の公演評やフェスティバル情報、ホットトピックスが生き生きと伝わってきました。


 日本海外問わず、この本にはライブ感のある記事が詰め込まれていますが、コンテンポラリー・ダンス全体を網羅的に扱っているので、振付家やダンサーの時代的な位置づけを知ることができます。特に私の目が見開いたのは、振付家でダンサーである勅使川原三郎の記述でした。乗越氏は「日本のコンテンポラリー・ダンスの元年を1986年とする」と書いています。この年、若手振付家の登竜門、バニョレ国際振付コンクールで勅使川原三郎が日本人として初めて入賞し、舞踏の創始者である土方巽が没しました。どちらも高校生だった私が生で観てみたい!と切望していた作品でした。当然、大学に入って初めて観に行ったのは勅使川原三郎で、作品は「Bones in Pages」だったことを鮮明に覚えています。


 と、ノスタルジーに浸りながら読んでいましたが、さらにこのような記述が。「当時(1986年)の勅使川原は、髪までも白く塗り、人形振りのようにシャープな動きから、たゆたうような情緒あふれる動きまでを自在に操って、硬質で豊かな美的空間を作り上げていた。振付にしても『ただ倒れて起き上がる』というだけの動きで魅力的なシークエンスを作ってしまう発想の自由さ。さらに衣装・照明・音楽など、すべてにおいてキッパリした新しさがあった。ああもうここから次の時代が始まるんだな、と観客は震えるような思いで見ていたのである」(p8-9)。勅使川原三郎の、完璧にコントロールされた美的世界に私はただうっとりうち震えてただけですが、その感情が言葉で書かれており、そうそう!こういうことだったのよ!と大きく頷きました。


 私が大学に入ったのが90年代半ばで、それから今までずいぶん多くのコンテンポラリー・ダンスを観てきたと思っていましたが、この本を読むと私の趣味が恐ろしく偏っていながら、まあ的は外していなかった、ということが解りました。が、ダンス業界の知識は2003年あたりで止まっていました。これは慌てて着いて行かねばなりません。


 という訳で乗越氏のもう一冊の教科書的著書である『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』買って読んでいます。これは海外と日本のダンサー、カンパニーごとにページが分かれているので、まさに網羅的なガイドと言えます。コンテンポラリー・ダンスに興味がある人は、とりあえず押さえておきたい二冊です。


 いま私の頭の中は、いいダンサーの舞台を観たい!生で観たい!そんなこんなで一杯です。

乗越たかお 著 
NTT出版