2015年8月28日金曜日

パンチ&デストロイ 名画に穴! in 台湾


   全世界の美術館・博物館関係者が白目をむきました。まずこちらの映像をご覧下さい。




中央社のYouTubeより

   台湾で開催中の展覧会で、12歳の少年がつまずいて150万ドル(約1億8000万円)の油絵に穴をあけてしまったのです。よろけたひょうしに右手でカンバスを思い切りパンチしているのが監視カメラに写っています。油絵は300〜400年前に描かれたパオロ・ポルポラという画家の作品で、イギリスの新聞The Guardian(8月25日)は「まるで悪夢が現実となったスラップスティックコメディのようだ」と書いています。笑っている場合じゃないよ。

   記事では「少年はアート界の困ったちゃんリストに名を連ねた」という前置きで、来館者が作品を破壊した例を紹介しています。靴ひもを踏んづけて転び、300年前の中国の花瓶を割ってしまった男性、ピカソの絵に倒れ込み15cmも破いてしまった女性、論外なのは、モネの名画を故意に破壊したとして逮捕されたアイルランド人の男性です。

   ところが26日、事態は急展開をむかえます。この名画は別の作家の作品によく似ており、価値も3万4000ドル(約41万円)以下かもしれないというニュースを時事通信が配信しました。これは本格的なコメディに舵が切られた予感がします。

  いや、贋作疑惑というサイドストーリーに惑わされてしまうのは美術館・博物館関係者には本意でないと思います。もっとつっこんで欲しいのは、展示方法や会場マネジメントの隙です。くわしく映像を見るとわかるのですが、油絵の手前にはロープが張られているだけでなく一段高くなっていて、何かに気を取られていたらひっかる可能性があります。少年の右手には飲み物を持っているのも確認できます。これはアウトだねー。

  わたしは美術館側の視点で見ているので主催者に工夫が欲しいと思いますが、来館者にすれば、ガチガチに管理された空間ではなく、気軽に名画に触れられた方がいいという見方もあります。そのあたりの意図と要望をどうすりあわせるかはやはりプロである美術館が担うものだと思います。

Boy trips in museum and punvhed hole through painting | The Guardian (25 Aug 2015)

2015年8月26日水曜日

「全く似ていない」オリンピックエンブレムとリテラシー

 オリンピックエンブレム問題にモヤついています。


 東京オリンピックのエンブレムが、ベルギーの劇場のロゴを盗作したものだと指摘された、あの件です。それ以降、あれも似てるこれもパクリだとあら探しが盛り上がったり、おもしろ半分に考えた新しいロゴをTwitterにのせたりしているのを見聞きします。ヘラヘラしている場合じゃない、このロゴは盗用なの?問題ないの?いちばん知りたいのはそこです。だってもうCMにも使われてるし、オリンピックは5年後じゃん!


 そのあたりを、ラジオっ子が大好きなTBSラジオ「荻上チキ・Session 22」(8月18日放送)のゲスト、弁護士の福井健策さんが解きほぐしてしてくれました。


  盗用かどうかを判断する前に、まずは商標権と著作権の二つを区別する必要があります(ここからして知らなかった)。商標権はトレードマークやロゴ、ブランドネームなど、国や地域ごとに登録されているもの。ベルギーの劇場のロゴは、商標登録されていません。一方、著作権は音楽や映像などの著作物が対象で、世界のどこであっても模倣は侵害とみなされます。


   では東京オリンピックのエンブレムについてはどうでしょうか。


 法的には、ロゴやマークなどは著作物にあたらないそうです。そうしておかないと簡単なシンプルなロゴなども全世界的に独占されることになり、使えなくなる可能性があります。一方、著作物は、より複雑なものを対象として、長く強い権利を与えてバランスを取っています。


 アルファベットのもじりはある程度似てくるので、今回の件では侵害は認められにくいというのが福井さんの意見です。


   それなら堂々と使おうよ?ということにならず、デザイナーの神妙な会見ばかりがクローズアップされています。福井さんは、論点はエンブレムのデザインなのに、デザイナーがいい人か悪い人かという話に拡散していることに違和感があると言っています。国際的な大規模なイベントではこういった問題はよく起こるので、慌てずに、というのが福井さんの弁です。


  この一件では、私たちが正しい情報にアクセスし、それを根拠に判断できるリテラシーを持っているかどうかを問われたと感じました。エンブレムがパクリかどうかという議論に、私たちは妥当な反応ができていたでしょうか。


    オリンピックほどの規模はあり得なくても、同じように判断に迷うできごとは私たちの身近には多々あります。そんなときは、感情的にならないで、落ち着いて、知恵をあつめて解決する。それが真摯な態度だと思います。

  やや広げすぎた風呂敷を畳みきれないままですが、今日はこれにて終了といたします。

2015年8月16日日曜日

アムステルダム国立美術館だョ!全員集合


 遅ればせながらドキュメンタリー映画『ようこそ、アムステルダム国立美術館へ』を観ました。レンブラントの『夜警』、フェルメールの『牛乳を注ぐ女』などの傑作を所蔵していることで有名な、アムステルダム国立美術館の10年に及ぶ改修を追っています。粛々と進められる歴史的美術館の改修…なのかと思いきや、粛々なんてとんでもない、ゴタゴタに次ぐゴタゴタに振り回されっぱなしの舞台裏が明かされます。


 冒頭、巨大な重機がコンクリートの壁を噛み砕くシーンに不穏な音楽が流れます。美術館の再生という華やかな題材にしては違和感があるのですが、これは、大いなる不安の予兆なのでした。


 自転車が通れるスペースが狭い!意気揚々とエントランスの構想を語りはじめる建築家に、初っぱなから市民から反対意見が噴出します。これを皮切りに、大臣から景観保全の要請、度重なる建築案の変更、工事の中断、など難題が次々ふりかかります。そんな事態が起きるたび学芸員も建築家も、もちろん館長もてんやわんやです。でもなぜかそこにはコミカルさも漂います。始めは「美術館のコレクションは王室のものではない、市民のものですから、わはははは!」と、よく通る太い声で語っていた館長からついに、「納期に追われる方がよっぽどましだ!」という本音がこぼれます。この時点で彼の目はもう笑っていません。折衝ミーティングでは、(もうおうちに帰りたい…)という表情を浮かべているスタッフの顔にカメラが向けられます。混乱に乗じて自分のキャリアアップを密かに期待するハンサム学芸員も登場します。そんな中で「アジア館には金剛力士像を置きたいんだ。一週間家にこもって展示室の模型を作ったよ。40年後に『おじいちゃんがここを作ったんだよ』って孫にみせてあげたいな」というマイペースなアジア館部長のキラキラした瞳ったら!


 国立美術館の改修という歴史的な場面でスパイラルする、情熱と失望、あきらめとタメイキを、この映画は見事にすくいあげています。生きていれば必ずどこかで起きる、こんがらがった人間模様です。めでたしめでたしの大団円ではないけれど、みんなが望むエンディングではなかったかもしれないけど、私たちは日々途方に暮れながら生きていく。美術館に集まった人たちの表情が、そうやって人生は続いていくことを物語っています。



2015年8月3日月曜日

ドキドキで4! 「575と言葉」ワークショッブ in 山梨県立文学館

 甲府の最高気温が37.3℃という、今夏最も暑かった先週土曜日、山梨県立文学館で行なわれた「575と言葉」ワークショップに参加しました。


 講師の米光一成さんは「『ぷよぷよ』『BAROQUE』『トレジャーハンターG』などを企画制作したゲームデザイナー」、とまとめられたプロフィールをよく見かけますが、私にとっては公開句会、東京マッハの出演やレビュアー、編集ライター養成講座の講師などでの活躍が印象的です。文芸作品からスーパーホテルの温泉の素晴らしさまで、同じテンションで書かれているエキレビ!というレビューサイトが私のお気に入りです。米光さんの書いたものを読むようになって、なんでもかんでも読み散らかしっぱなし、書き散らかしっぱなしだった私は、言葉のあやつり方の面白さに興味を持つようになりました。


 そんな米光さんがこの山梨に?!ということで灼熱の甲府にのり込みました。


 参加者の対象は中学生以上、となっていたので、ティーンに混ざって大人がしゃしゃり出ていいものか…と思っていましたが、参加者は小学生から高校の文芸部、50代のおじさんも集まってわいわいムードでした。


 ワークショップは簡単なカードゲームで、5人ぐらいのグループに分かれて行ないます。キーワードと文字数(3、5、7、字余り)が書かれている小さいカードをめくり、例えば「はねる」で「5」というカードが出たら5文字で「はねる」を表す単語を考えます。みんなが出した答えをくらべて、一番票を集めた人が勝ち。そうきたかー!という単語もあれば、「軽い」で「3」というカードが出て「チャラ男」と書いた人が2人いるという展開もありました。小学生がいるグループから「セカオワ」という声が聞こえて(セカオワ…ってなんだっけ?)と自分の年を改めて実感し、胸キュンな言葉が飛び出る高校生グループに、なんてピュアな…と目が遠くなるなどもあり。ゲームが想定していなかった事態になったときは、なるべく面白くなる方へルールをゆるやかに変える米光さんの場さばき(?)にも同時に注目。


 最後は各グループで一番票を集めた人たちによる名人戦です。大喜利スタイルで米光さんが出したお題に答えます。「『ドキドキ』で4!」のお題で一番うけたのは女子高生の「呼び出し」。職員室に呼ばれちゃう高校生あるあるです。最後は「『しあわせ』で5!」。これは妙に重いお題。お子さんの付き添いで来たはずが、自分も参加してしまったという女性の答えは「息してる」。究極、と思ったところに小学生の女の子の「プレゼント」で一同拍手~!深淵からシンプルなしあわせにたどり着いて終了。


 私は美術館教育に関わってきたことがあり、ワークショップはいろんなかたちで見たり実践したりしてきました。ベースは教育なので、教室とは違う学びを提供したいという思いや、美術館や博物館に触れる機会を増やしてほしいという期待があります。効用を求めて窮屈になってしまうジレンマも感じてきました。でも、この日のワークショップでは、言葉や俳句という自分の得意分野から遠い場所で、参加者としてぞんぶんに楽しんできました。今日はもう、「楽しかったー!」で締めます。またどこかで、だれかとこのゲームで盛り上がりたいな。