2014年9月9日火曜日

ミュージアムをハックせよ!


 











 「ミュージアム嫌いのためのミューアムガイド」というちょっと目を引くミュージアムガイド会社をみつけました。その名はMuseum Hack。NYを拠点にしており、メトロポリタン美術館とアメリカ自然史博物館でオーダーメイドのガイドツアーを独自に行なっています。 

 私が初めてMuseum Hackの名前を目にしたのは、結婚直前の女子会ツアーについて書かれていたネットの記事です。(こういったイベントはアメリカではbachelorette party、イギリスではhen partyと呼ばれます)。ワイナリーやクルージングなどでパーティをするのが一般的らしいのですが、Museum Hackは、ミュージアムでのパーティを提案しています。主人公である結婚直前の女性とその友人たちがドレスアップして美術館に集まり、Museum Hackのスタッフによる解説を聞きます。女子だけのパーティということで気を利かせて「ちょいエロ」な作品を紹介しています。美術館で一番ナイスなおシリの彫刻とか、そんなものがチョイスされていて女子たちは大盛り上がりするそうです。作品の前での自撮りタイムがあったりと、よくあるパーティとは違って好評だそうです。これだけではなく、家族向け、企業のVIPツアーなどを企画しています。基本的にはミュージアムにあまりなじみのない人に楽しい体験を提供するというのが彼らのミッションです。

 Museum Hackは設立からまだ一年の美術館、博物館側と提携していない独立したミュージアムガイド会社です。個人のニーズに合わせた少人数のツアーを行なっているのが特徴です。会社を設立したのはニック・グレイ氏。友人の誕生日にメトロポリタン美術館のガイドツアーをプレゼントしたところ、口コミでツアーの申し込みがあったことがきっかけでこのビジネスを始めました。

 通常、美術館、博物館は学芸員や館のボランティアが解説ツアーを行なったりイベントを開催したりしています。ワークショップなどは外部に委託したり協働したりすることは聞いたことがあります。しかしMuseum Hackのような独立した営利企業がガイドツアーを行なうのは可能なのか?私が気になった点はここです。口コミで始まった会社が大規模なミュージアムで顧客を獲得できるのかも知りたいと思いました。また、サイトやYoutubeで紹介しているツアーを見ると、かなりカジュアルでノリノリな雰囲気に驚かされます。「ミュージアム嫌い」を呼び込むにはキャッチーですが、正統派を好む人は学芸員の解説に信頼を置くのではないかとも思います。

 いったいMuseum Hackとはなにものか?設立者のグレイ氏にメールで質問したところ、以下のようなお返事をいただきましたので紹介しつつ、このビジネスの可能性について考えてみたいと思います。

ー Museum Hackのようなビジネスは日本ではあまり聞いたことがなかったのでとても興味を持ちました。まず、数ある魅力的なミュージアムの中でメトロポリタン美術館とアメリカ自然史博物館を選んだ理由を教えてください。

グレイ氏:Met(メトロポリタン美術館)とアメリカ自然史博物館は、規模、来館者数ともにNYで一番大きなミュージアムですので、来館者は圧倒されてどう鑑賞してよいか分からなくなってしまいます。こういった大規模なミュージアムにこそMuseum Hackのようなプライベートなツアーがふさわしいと考ました。

ー この二つ以外にもツアーを行なう予定は?

グレイ氏:ほかのミュージアムにも新しい企画を持ち込んでみたいと思っています。トレーニングプログラムやワークショップにMuseum Hackを利用してくれているミュージアムも多くありますが、新しい場所でツアー参加者を得るのはなかなか難しいです。ツアーを増やすとなると新規スタッフの採用、ミュージアムの選定などが必要です。収蔵品について学ばなければなりませんし、マーケティングにも時間を取られます。それから来館者数が多く見込めるような大規模な都市を選ぶ必要もあります。例えば東京や京都、ロンドン、パリなどがあげられますが、今の時点では事業を広げる予定はありません。

ー 『ミュージアム嫌いのためのミュージアムガイド』とのことですが、宣伝はどのように行なっていますか?

グレイ氏:ほとんどがSNSか口コミですね。

ー ミュージアムに手数料やマージンを支払う必要はないのですか?

グレイ氏:Metにツアー客分の入館料を支払っています。例えば一人75ドルのツアーであればMetに大人料金20ドルを払います。Metのグループサービス部門との話し合いで決めました。

ー スタッフはどのように採用していますか?ガイドにはどのような方が多いのでしょう?

グレイ氏:スタッフには美術史を専攻した人、ミュージアムエデュケーター、俳優、音楽家、科学の教師など様々なバックグラウンドを持って人たちがいます。この多様性が私たちが自信を持ってアピールできる点だと思っています。採用において一番重要なのは、ストーリーを語る力があること、そして人と親しくなれる資質です。美術史は、人に教えることはできますが、楽しく和んだ雰囲気で学ぶのというのはそれより難しいことです。求人に関しては、一人のポストにだいたい200人の応募があります。

ー スタッフトレーニングについて教えてください。もっとも重視している点は?

グレイ氏:社内のフェイスブックで情報交換を行なったり、実際にツアーした時の知識を共有したりしています。新人は、メトロポリタン美術館と所蔵作品について短い研修を受けることになっています。でも一番いいのは実地で学ぶことなので、実際のツアーで来館者とのやり取りから訓練することが多いです。

ー これぞMuseum Hackの持ち味!といえるものはなんでしょう?

グレイ氏:私たちはミュージアムの職員に最大の敬意を払っていますし、彼らは来館者に素晴らしい鑑賞体験を提供しています。しかしMuseum Hackはもう少しプレミアム感、プライベート感を期待する人たちを対象にしています。ミュージアムが目指すのは、より幅広い、より多くの来館者へのサービスですが、私たちは特別にカスタマイズしたプライベートツアーを行なっています。Museum Hackのツアーは多くても6人までで、ミュージアムの教育部門などほかのツアーに比べてかなり少ないと思います。

ー 公的なミュージアムで独立して営利プログラムをスタートできたわけは?ミュージアムには学芸員やボランティアのツアーもあると思うのですが。

グレイ氏:これはちょっとデリケートな話題ですね!私たちは公共のスペース営利活動を行っているわけですが、これは全て素晴らしいミュージアムと作品があってこそできるものです。他のツアーガイドと同じく、私たちが新しい来館者を呼ぶことでミュージアムに対して貢献していると考えています。

 グレイ氏はその後「参考になるかもしれないと思って」とPBS(アメリカの公共放送)で紹介されたニュースのリンクも送ってくれました。インタビュアーも、私が少し気になったように、「関係のない下世話なネタでアートを語るのはリスペクトが足りないと思う人もいるのでは?」と聞いていました。そこはグレイ氏も慎重に答えていて、決してアートの価値を下げているのではなく楽しい鑑賞体験をしてもらって、もう一度ミュージアムに来てもらうことを大切にすると言っていました。やはり専門的な知識を積み上げ、価値を作り上げてきたミュージアムが行なう教育プログラムとMuseum Hackの間には緊張関係があると感じます。若い人たちにミュージアムへの敷居を下げ、かつ何度も足を運んでくれる人を増やす、という課題にどのように取り組んでいくのか、これからの活動に注目してみたいです。

Bachelorette party@Met「行くわよー!」












「イエーイ!」














2014年8月19日火曜日

アート、開いてました!

夏の企画展in東京放浪記、最後は東京国立近代美術館の『現代美術のハードコアは実は世界の宝である』展です。この企画展のチラシを見たとき、いつもの国立近代美術館とは思えない派手さに度肝を抜かれました。キラキラのモチーフに囲まれた金ぴかオブジェ。これはマーク・クイン作のケイト・モスをモデルにした彫刻です。さらに美術館の前庭には「だ、大仏?!」と見まごうほどに巨大化したケイト・モスの彫刻が展示されています。

東京を訪れるにあたって、この企画展を見に行くことは迷わず決まっていました。電子マガジンのSYNODOS(2014.07.05 Sat)で本展の企画をした学芸員の保坂健二朗氏のインタビューを読んで「この作品はなぜこの価格で取引されているか、その価値はどこからきているか」という点にフォーカスした、キュレーションが際立っている企画展だと感じたことが大きく影響しています。

ハードコア展は台湾のヤゲオ財団のコレクションから構成されていています。作品は、台湾の電子部品メーカーのヤゲオのCEO、ピエール・チェン氏が収集したものです。内容は中国と西洋の近現代絵画、彫刻、写真作品などで、マーク・ロスコ、アンドレアス・グルスキー、アンディ・ウォーホル、蔡国強など、現代美術界で知られていない人はいない、というクラスの作家ばかりがそろっています。

また、いつもならさらっと通り過ぎてしまう展覧会の入り口パネルにも注目しました。お寿司のネタを例にして鑑賞のヒントが書かれています。ネタ(美的価値)と時価(市場価値)との関係性を考え、ネタが本当においしいか、時価が自分にとって適切か、それが他の国ではどうなのか、について考える企画展だとまとめてあります。時に美しく感じられる、また時には恐怖や不快感を催すような作品の価値は、誰が、どのように決めるのか、ヒントが書かれています。

SYNODOSのインタビューでは、美術品について「動産だけど消耗品でなく、ひょっとすると市場価値が上がるかもしれないというものはほかにありません。(略)経済や市場というものがある種の合理性で動いていると思われている中で、よくわからないロジックで動いている世界があるっていうのは、なんか、救われるなあという気がするんです。」と保坂さんは言っています。美術作品は美術的に価値があるから意味がある、というだけではなんとなく詭弁に聞こえるものが、別の論理が働いていることを知れば、「価値」ってなんだろうというところから美術品と向き合えると感じました。

さて、このゴージャスなコレクション展、チラシには「『○○コレクション展ってあんまり面白くなさそうだよね』という人もきっといることでしょう」と書いてありましたが、いやいや、そんなことはありませんでした。コレクション展だからこそばったり再会できることがあるのです。それはツェ・スーメイの作品でした。解説パネルを見る前に気がつきました。展示室の最後の方、碁石をモチーフにした写真です。彼女は数年前に水戸芸術館まで企画展を見に行った作家です。

東京国立近代美術館での展示は24日で終わってしまいますが、このあと名古屋市美術館、広島市現代美術館、京都国立近代美術館へと巡回します。東京で見逃した方は、どうぞそちらへ!















東京国立近代美術館(〜8月24日)
10:00〜17:00(金曜日は10:00〜20:00)休館日月曜日
名古屋市美術館、広島市現代美術館、京都国立近代美術館を巡回

















2014年8月5日火曜日

色彩が与えられた幻の世界


















 夏の企画展放浪記in東京、次は乃木坂の国立新美術館で開催されている『魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展』です。これまで私が観てきた企画展の中でもベスト上位に食い込む展覧会でした。


 バレエ・リュスは、20世紀初頭に勃興し斬新なステージで一世を風靡しましたが、数十年で形を失った伝説的なバレエ団です。突出した才能を持ったダンサーのニジンスキーは舞踊の神とも呼ばれ、その後のバレエに大きな影響を与えました。


 展示室は間仕切りがほとんどないワンフロアで、低めの展示台の島に衣装を着せたトルソーが並んでいます。視線のずっと先までダンサーの幻が浮かんでいるようにも見えました。一部はケースに入れられていましたが、それ以外の衣装は、縫い目ひとつ、ビーズひとつ、ラメのキラキラまでも眼前にすることができます。数分ほどの映像でしか観たことのなかったバレエ・リュスのモノクロの世界に、突然色が与えられました。


 バレエ・リュスは主宰者のディアギレフのずば抜けたプロデュース力で、当時のヨーロッパにおける最先端の音楽、舞踊、ファッション、美術などのエッセンスを凝縮させた総合芸術といえます。まだ無名だった頃のシャネルやアーティストのマティスが衣装デザインに関わっていたことも知られています。マティスのデザインした衣装も展示されていました。オリエンタル趣味を取り入れたものとありましたが、スーフィーを思わせる神秘的な雰囲気もありました。この時代が荒々しい創造性にあふれていたことが衣装からだけでも分かります。

 なかでも布に直接ペイントを施した衣装が多くあったのが特に印象的でした。イメージを今すぐ形にしたいというような情動が伝わってきました。その大胆さは、布を織ったり加工したりする時間がもったいないと思っていたかのようなスピード感があります。作ってる人も楽しかったに違いなかったでしょう。躍る時に映えるようにデザインされた衣装が、そのままで人の心をつかむ力を持っている。私の脳内はうっとりと興奮のスパイラルでした。短くはかなく、夢のようなバレエ団だと思っていたバレエ・リュス。実際にはこんなに弾ける色彩を持っていたなんて。


 ミュージアムショップにはバレエ・リュスの歴史、ディアギレフ、ニジンスキーの自伝など、読みたい本がどーんと並んでいました。一気ににどーんと買ってしまいそうになりましたが頭を冷やして会場を出ました。まずは『ニジンスキーの手記 完全版』を読んでみたいです。訳はバレエの伝道師、鈴木晶さんです。


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魅惑のコスチューム:バレエ・リュス展』
国立新美術館
2014年6月18日(水) - 9月1日(月)
毎週火曜日休館 (8月12日は開館)
10:00〜18:00 金曜日、8月16日(土)、23(土)、30日(土)は20:00まで











2014年8月3日日曜日

資生堂はいつも本気だぜ!

 







 東京都立美術館の内覧会にでかけた足で、都内の美術館の企画展を廻ってきました。いまは遠方に住んでいるため熟考に熟考を重ねた結果、ベストルートは資生堂ギャラリー、国立新美術館、国立近代美術館に決定。というわけで「夏の美術館放浪記in東京」第一弾は銀座の資生堂ギャラリーです。現代美術活動チーム目【め】による展覧会『たよりない現実、この世界の在りか』を観てきました。


 詳細を紹介するとネタバレ同然なので内容はほとんど書けません。プラス、下世話なことなのですが、展示室に入ってすぐ「うわ。これはお金かかってる」と戦きました。新しい才能を育てる資生堂のセンスのよさ、気前の良さにしびれます。一企業のメセナ活動としては飛び抜けています。とにかく資生堂はいつも本気だぜ!という気概を改めて感じて私の背筋もシャキーン!と伸びたのでした。


 タイトルのとおりこの展覧会は「たよりない現実」を私たちに見せてくれます。心が躍るファンタジーのようではなく、いつまでも醒めない夢のような形で。


 資生堂ギャラリーには何度も訪れたことがありますが、その記憶が思い出せないぐらい空間の様子が変わっていました。入り口さえも分からなくなっていて穏やかならぬなにかに引き込まれます。入ったら最後、闇に視覚が慣れず方向が分からなくなってきます。資生堂ギャラリーって、こんな狭かったかな、いや、広かったかな、と頭の中がぐるぐるしました。


 エレベーターで地上階に戻って、改めて念入りなつくりに感嘆すると同時に背中に冷や汗をかいていました。「さっきの場所は、本当に存在したのかしらん…?」と資生堂ビルを出たあとにもう一度ガラスの向こうをのぞいてみたくなりました。このとき、『たよりない現実、この世界の在りか』の意味がゆっくりと私の身体にしみ込んできました。

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『たよりない現実、この世界の在りか』
資生堂ギャラリー
2014.7.18(金) - 8.22(金)
11:00〜19:00(日・祝 11:00 - 18:00)
毎週月曜休 (7/21も休館)



2014年8月1日金曜日

東京都美術館『楽園としての芸術』展ブロガー★ナイト








 夕暮れの東京都美術館、誰もいなくなった館内に入ります。全ての来館者が退館した後です。ロビーやミュージアムショップもいつもと違って照明が暗く落とされています。館内を進みエスカレーターで地下階に降りると『楽園としての芸術』展の入り口が次第に見えてきて、談笑したり写真を撮ってりしている音が聞こえてきました。


 この日、東京都美術館で企画展『楽園としての芸術』展のブロガー特別内覧会が開催されました。ブログで紹介できる人が招待されたイベントです。私も招待されたブロガーの一人です。


 『楽園としての芸術』展は東京と三重にある「アトリエ・エレマン・プレザン」、鹿児島にある「しょうぶ学園」で制作されたダウン症や知的障害のある人びとの作品を展示しています。


 東京都美術館は2012年、2年間にわたるリニューアル工事の後「創造と共生の場=アート・コミュニティ」「生きる糧としてのアート」「心のゆたかさの拠り所」というキーワードをもとに新しいミッションを掲げました。今回の企画展はこのミッションの体現を目指したもので、学芸員の方が全国の障害者施設やアトリエなどを訪ねて出会ったのがアトリエ・エレマン・プレザンとしょうぶ学園です。














 
 展示されているのは絵画や立体などの純粋な造形作品、工芸作品、工芸の要素が含まれる作品などさまざまありました。中でも私に強い印象を残したのがしょうぶ学園の、より工芸に近い作品です。このままカードにして売っていたら欲しいな、と思わせる絵、刺繍や布を縫い付けてリメイクし機能から自由になったシャツ、木工の皿や入れ物が紹介されています。しょうぶ学園は知的障害者の作業所として下請け作業を行なう施設でしたが、30年近い時間をかけて一人ひとりのしたいことはなにかを考え、創造性のある作品を作れるような環境を整えていきました。その長い試行錯誤の後にこのような作品が生まれるようになりました。


 ひとつの展示室にまとめられたしょうぶ学園の作品の中で、いちばん光を放ってたのが奥にある3つの小さなガラスケースでした。カラフルな布の切れ端が入った小瓶と平たいスチール缶、作者のものと思われる道具箱が展示されています。布は1cmにも満たない小さなもので、はっとする色使いで玉結びが施され重ねてられています。道具箱はクッキーが入っているような細長い箱です。はさみは使い古されて指を入れるところが壊れ、テープで補修されています。その脇にはくるくるに巻かれている糸束。持ち主の創作の過程が垣間見えてくるようでした。どれも特別なものではないのに、どれが欠けても完成されない、小宇宙ともいえる深みを感じました。背景を知りたいと思い学芸員の方にお話を聞きいたところ、道具箱は実際に使っているものだそうです。作者は50代ぐらいの女性でいつも肩幅ほどの狭いスペースで作業をしており、驚くべきことに糸くずが全く出ないんです、と仰っていました。さらに素敵なエピソードがあって、平たい丸缶に布切れが入った作品は、あるとき施設の職員の方に彼女から「プレゼントです」といって渡されたものなんだそうです。つつましく細かい部分にこそに誠実さや創作の喜びが表れているように見え、ものを作る人でなくても共感できるのではないかと感じました。










 


 美術館から出ると空はすっかり暗くなっていました。目の前に見えたのがこの写真の風景。外から赤い壁と並んだ椅子が見える、この美術館で私が好きな場所のひとつです。最後まで心満たされる夜の美術館でした。






















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『楽園としての芸術』展 Art as a Haven of Happiness
東京都美術館 ギャラリーA・B・C
2014年7月26日(土)〜10月8日(水)
月曜、9月16日(火)休館
9:30〜17:30(入室は塀質の30分まで)


2014年6月28日土曜日

海外美術品等公開促進法


 先日とりあげた台北國立故宮博物院について、「日本政府が海外から貸し出された資料の差し押さえを防止する法案を制定した」と書きましたが、法律の名前までは確認しきれませんでした。ちなみにAFP通信とWall Street Journalでこれについて言及していました。


 気になっていたところ、毎日新聞の記事で報道されているのをみつけました。(あ、この展覧会のスポーンサーでもある毎日新聞、展覧会名を「台北・故宮博物院の特別展『神品至宝』」と書いているのがちょっと苦しいところ)。


 2011年3月に設立した「海外美術品等公開促進法」という国内法で、国際文化交流の視点から公開が必要と考えられる海外の美術品等について、文部科学大臣が指定するところにより強制執行等ができなくなるというものです。絵画、彫刻、工芸品、また化石や希少な岩石、鉱物、標本といった学術上すぐれた価値があるものも含まれています。文化庁のサイトで公開しているパンフレットによると、この法律によって、海外の美術品所有者の不安を取り除き、日本で安心して出品してもらうことを可能にする、と書いてあります。


 毎日新聞の記事では、この法律は、台湾からの要請で台北故宮博物院展開催のために制定されたと書いてあります。これまでも外国政府が所有する美術品に関する法律がありましたが、国連に加盟していない台湾には適用できませんでした。今回の企画展では、中国との外交関係が展覧会名に影響したのではないかとの声も聞こえました。そこは新法の中で「文部科学大臣は、指定をしようとするときは、外務大臣に協議しなければならない(第三条-3)」という一文があり、今回の企画展開催前にも外務省が中国に非公式に打診をしたそうです。そうしたところ「賛成はしないが、反対もしない」という中国側からの感触を得て開催に至ったそうです。


 軍事や領土や人権など政治的な問題は外交の専門家に任せて、文化交流は独自にすればいい、と、のどかに思っていましたが、文化交流もcultural diplomacy(文化外交)であり、政治的な問題とは切り離すことはできません。あの後も、別の台湾人の友人とこの話題でチャットをしました。とりあえず、政治問題は友人関係とは別ってことで、と前置きしつつ、お互い母国語でない言葉でこの話題で話をするのは難しいなーと、どっと疲れが押し寄せました。とはいえ、もしこの問題が起こっていなければ、私は海外美術品等公開促進法のことも知ることはなかったでしょう。そうやって世界は広がって、いや、広げていくのだ、というポジティブな気持ちにもなったのでした。







2014年6月24日火曜日

「國立」問題をかんがえる


 今月24日から東京国立博物館で「台北 国立故宮博物院ー神品至宝ー」展が始まります。

 私がこの展覧会の問題を知ったのは21日(土)。ツイッターでの美術関係者、国際関係に詳しい人たちの投稿からでした。日本側がポスターなどのプロモーション媒体に「國立」を入れていないということが発覚したことが問題の発端でした。これを台湾メディアが報道したことで、22日午前0時までに正式名に修正しなければ、展覧会を中止すると台湾の馬英九総統が抗議したというもの。博物館側は正式名称を表記していますが、スポンサーである日本の新聞社やテレビ局が作成したポスターなどに「国立」の表記がありませんでした。日本は台湾を国家として認めていないために、大型企画展のスポンサーであるメディアが報道に準じた表記をした対応がもとになっているという背景があるようです。また、台湾と中国両方に故宮があり、どちらが國立を名乗るかでも両者で問題になっているということ。展覧会は無事に始まりましたが、台湾側の名誉団長として来日予定だった馬英九総統夫人は23日(月)のオープニングには参加しなかったそうです。

 ツイッターでは投稿をまとめている人もいて、なんとなく状況は分かるのですが、発言している人が何者か分からない場合があるのが問題です。何が起こっているのか、納得できるものをみつけてみることにしました。

 まずは問題を知った当日、台湾人の友人に聞いてみました。彼女はイギリスの大学院で博物館学を学んだ時のクラスメイトです。「文化交流が台湾と日本との間の外交問題でこじれているようで悲しい」と言ったところ「これは台湾の博物館の中でも一番重要な課題で、そもそも中国から台湾に博物館資料を持ってきた時点から始まっている。政府が名称について対外的にきちんと説明していないからややこしくなっている。個人的な意見だけど、これは政治的な問題だと思う」という返事がきました。ツイッターやブログを見ると「日本が不適切な対応をして台湾がおかんむり。日本の対応が悪すぎ。」というニュアンスで書かれているものが目立っていたり、記名の記事でもスポンサーの微妙な立場をにおわせていたりしていたので、一人の意見とはいえ、台湾側にどんな事情があるのかが分かりました。

 次に海外のメディアがどのようにこの問題を書いているかを調べてみました。東日本大震災で原発事故が起こったとき、海外の報道を見ていた方が状況がつかめた、と言っていた人がいたので、今回はそれをまねしてみました。23日(月)にGoogle newsでトップに出てきた、日本と台湾以外のメディアの報道をざっと読んでみました。私が選んだのは香港のSouth China Morning(南華早報)、AFP通信、Wall Street JournalそしてABC Newsの4つです。偏りがなるべくないようにするにはもっと媒体の種類を広げた方がよいのですが、私の能力の限界ではここまで。

 どれもおおむね事実を淡々と伝えている印象でした。主に、今回の問題が起こった発端の出来事、台湾が故宮博物院を作った経緯、現在の台湾と中国の関係、の三つが書かれていました。私が読んだ中ではAFP通信の記事が一番分かりやすかったです。馬総統のスポークスウーマンが取材に答え、日本が台湾側に謝罪し「國立」を入れるという電話を受け取ったが、事態が急だったので夫人の来日は見送った、というコメントで今回の問題は決着したと書いています。また、日本の立場としては、外交面では台北よりは北京とのつながりが深いながら、商業などでは台湾とのつながりは深い、また1895年から1945年まで台湾は日本の植民地であった、というところまで言及しています。興味深かったのは、故宮の資料を日本に貸し出した場合、中国に差し押さえられるのを台湾が懸念していたという点です。しかし2011年、海外から貸し出された資料の差し押さえを防止する法案を日本政府が通したことで、日本での展覧会を躊躇していた台湾が今回の展覧会の開催を決めたということです。

 台湾は中国の一部と主張している中国と、台湾を国家として認めていない日本、という長い歴史の流れの一つとして今回の問題が現れたようです。

 とりあえずここ数日で私が把握できたのはここまでです。







2014年6月10日火曜日

ミュージアムグッズ考


ミュージアムグッズ考


アメリカで起こった9.11テロ事件の記憶を残すため、5月15日に9/11メモリアルミュージアムがオープンしました。ツインタワーの跡地に残された遺物や遺構に、間近にふれられる博物館になっています。


ウォールストリートジャーナルのネット版(2014/5/28)によると、ミュージアムショップが議論を呼んでいるそうです。


このニュースを読み始めた時点で私は不穏なものを感じました。
ここで取り上げられていたものは、ミュージアムのショップで販売されている陶器のプレートです。アメリカの地図上の、テロリストが攻撃した場所にハートマークがついたデザインになっています。テロが起こった場所で売られるには不謹慎であるという声が上がったそうです。気になって、ほかにもなにがあるかオンラインショップを見たところ、おどろきのアイテムがいくつかありました。国旗がデザイン化された、愛国心を表すアイテムはまだ理解できますが、「9/11」の文字が入ったTシャツ、トートバッグなどは戸惑いました。お土産でもらったら?エコバッグとして使う?「9/11」とプリントされているバッグを?しかし、陶器のプレートは別として、需要があるからこういったものも売られているとも言えます。


この記事で思い出したのは、以前にもこのブログで書いたイギリスのImperial War Museum Northです。日本で育って教育を受けたものとしては、これが戦勝国というものか、と思わせるアグレッシブな展示内容に驚愕したものです。このミュージアムのショップをネットでもう一度調べたところ、本やDVDはもちろんですが、カモフラージュペイントや戦車の模型など、子供向けのグッズが充実していました。女性、男性向けのジュエリーもいくつかありました。彼氏からもらったらちょっと空気が微妙なことになりそうです。それからチョコレートバーやお菓子なども。(誰向け?)。厳粛な気持ちで展示室を出たとたんになんていう品揃え!結構にぎわっていたことを思い出しました。


記事では、オクラホマシティーの爆弾テロ事件のメモリアルミュージアムや、パールハーバーのブックショップで売られているグッズについても言及されていました。パールハーバーのブックショップの運営者によると「手に取った人が気まずい思いをしないかどうか」を商品の基準としているそうです。こちらもネットで調べたところ(ネットって便利!)キーホルダー、マグカップ、しおり、記念コイン、ポスターなどなど、オンラインショップはなかったので詳細はわかりませんでしたが、退役軍人やその家族などがターゲットなのかな、という雰囲気でした。


日本ではどうでしょうか。テロに関する博物館はなさそうですが、広義にとって戦争をテーマにしたところでは原爆資料館がまず頭に浮かびました。ネットで見つけたのものでは、資料館で売っているのかはわかりませんが、公益法人広島平和文化センターが販売しているもので、原爆ドームのモチーフが入ったTシャツや鳩のモチーフを使った平和関連のグッズ、一筆せんなどがありました。個人的には、メッセージ性が強すぎるものは使いにくいと感じます。


ミュージアムショップに求めるものは人それぞれで、物議を醸すようなものは売られていないと思っていました。お土産一つで複雑な思いを引き起こすこともありうると思うと、買っていいかどうか躊躇する場面もあるかもしれません。ミュージアムの資料だけでなく、ミュージアムグッズという視点から、ものに対する価値観や倫理観を見ることもできそうな気がします。博物館や美術館の中でも、あまり深く考えたことがない場所でした。これからちょっと気をつけてみていきたいと思います。

2014年4月29日火曜日

内沼晋太郎さんに会いに行く

 内沼晋太郎さんのトークを聞きに行ってきました。肩書きはブック・コーディネーター/クリエイティブ・ディレクター。本と人をつなぐ、本との出会いの機会を作る、という仕事をしている方です。ビールが飲める本屋さんのプロデュース、読書用品の開発、ファッションブランドとのコラボレーション、そして編集や執筆などなど、様々な角度から本との関わっています。本にまつわる仕事ってこんなにあるということへの驚き、というか仕事がこんなに作れるんだ、というのが今回の肝でした。

 具体的な活動はもとより、その原動力となる本への思いを、柔軟な形で現実化させているところが内沼さんの仕事のポイントです。たくさんの本に囲まれて世界の広さに触れ、一生かかっても読めないだろうと圧倒された、という内沼さんの体験を聞き、この思いが根底にあるから活動がぶれないし自信が持てるのだと思いました。お金にならない活動も趣味ではなく「お金をもらわない仕事」として取り組んでいる、というくだりが心に響きました。趣味だったら自分のためだけにやっていることだけど仕事ととらえれば人が関わってくる、とのこと。このあたりは、仕事のあり方についていろいろ思うこともあったため、「仕事とはこうしなくてはならぬ」という思いから解放される思いがしました。好きなことを仕事にする方法や形はいろいろあるし、可能性は狭めなくてよい、といえれば風通しがよくなります。

 本と関わる仕事がしたいけど経営的には立ち行かない。どうしたらいいか。それなら利益率が上げられるものと一緒に本を売るという方法もある、といったアドバイスも実際的でした。

 内沼さんが自分の仕事について書いた「本の逆襲」という本が去年の秋に刊行されているそうです。読まねば。



2014年3月16日日曜日

PLAY with Soundscape 音風景の可能性

















 茅野市美術館へ「PLAY with Soundscape 音風景の可能性」のオープニングを観に行ってきました。地域の様々な場所で収集された音のインスタレーション、ダンスとのコラボレーション、音の作品公募など、音風景を主題にした企画になっています。
















 
 私が今日観たイベントはダンスと音のコラボレーションです。Monochrome Circusというカンパニーが、茅野で収集された音にインスパイアされて作った作品で、美術館空間全体が舞台となります。はじめに観客が集められたスペースは七、八十人ぐらい埋まっていました。チラシやウェブのデザインを見ると若者向けの印象がありましたが、年齢層は小さな子ども連れから年配の方まで意外にも多岐にわたっていました。

 観客は向かい合う形で壁を背にして座り、その間の空間でダンサーが踊るという構成でした。この会場で、身じろぎもせず集中して観ていた小学校三年生ぐらいの女の子が私の目を引きました。これぐらいの年齢にはちょっと長いかもなーと思ってみていましたが、子どもだからといって大人があれこれ先回りする必要もないのでしょう。まあ、小さいときからいろいろ観ると、いいものがちゃんと判断できるようになるからこういうところには来ておいた方がいいよ。というのは余計なお世話なつぶやき。

 会場を出て展示室やロビーでもダンスは続きました。ガチッとした様式美の空間で踊られるダンスが好きな私にはすこし散漫だったのですが、目の前のダンサーに反応して大はしゃぎする幼児もいたのは微笑ましい風景でした。

 前回書いたくらもと古本市と同じように、この企画も地元をテーマにしていてそのこじんまりしたところに無理がないと感じました。だからといって閉鎖的な世界かというとそうではなく、いいあんばいに地元愛が育まれているように見えます。今日の会場では、このイベントを見に来たのではなさそうな着物姿の子どもたちが興味深げに覗き込んでいたのが印象的でした。別会場で行われていたなにかの発表会に来ていたようです。普通のホールで観るようなダンスとは違った親密な空気がそこに生まれていました。

(ロビーで続くダンス、そして二階から覗き込む着物姿の子どもたち…)



2014年3月12日水曜日

蔵元めぐっていい本探し

 二月の寒空のもと、中央線上諏訪駅近くの五つの酒蔵で行われた「くらもと古本市」に行ってきました。


 駅から徒歩十分圏内に舞姫、麗人、本金、横笛、真澄というの五つの酒蔵があり、近隣の古書店がそれぞれテーマにそったセレクションの古本を出店しています。お酒や信州に関する本を扱った蔵元や、本以外にもはがきやしおりなどの紙モノ、地元ブランドの服を販売している蔵元もありました。私は参加できませんでしたが、本の修理やアルバムを作るワークショップもあったそうです。


 駅の観光案内所で古本市のリーフレットとマップをもらってぶらぶらしてみると、平日にもかかわらず、家族連れや若いカップルなどがこのイベントを目指してきていました。どの酒蔵も入り口に酒樽を積んであったり杉玉が吊るしてあったり、いい雰囲気でした。もちろん試飲もできて魅力的だったのですが、五つも行ったり来たりしていたら正体をなくしそうだったので、そこは我慢…。


 実は駅前にあったデパートが2011年に閉店していたことを知らなかったので、駅を出たときにずいぶんと風景が寂しくなったと感じました。こういった駅前の空洞化は、大型店舗出店などで全国の地方都市でも少なくないと思います。そういうあたりがいろいろ、複雑な思いでしたが、このイベントが気負いなく地元の産業とつながっていることに好印象を覚えました。小規模であったことも理由かもしれませんが、よくある街全体を盛り上げよう!的な、気合いでとりあえず人がくればいいというスタンスは感じませんでした。リーフレットや蔵元の前に置かれたサインなどのデザインも統一感があり、押し付けがましくないところもよかったです。蔵元の方も作家ものの酒器を置いている店が併設されていたり、昔の雰囲気を残した作りになっていたり時代に合ったテイストを加えているところもありました。


 日本酒と古本という、ターゲットが絞られているイベントのように見えましたが、東京のように大都市でなければ、多くの人に発信できるものを目指すより、ニッチなイベントが複数ある方が長続きするのかもしれないと思いました。


 このくらもと古本市は今回で三回目で、次回は秋だそうです。今回は本にばかり目がいってしまい、肝心の日本酒は買わずに帰ってきてしまいました。次はぜひ試飲もして美味しい日本酒を見つけたいと思います。







2014年3月11日火曜日

コンテンポラリー・ダンスを語ってごめんなさい!

 近所の図書館には、新聞の書評で取り上げられた本を集めたコーナーがあります。一通り見るとあまり間違いのないセレクトができるので、時間のないときにはここだけチェックすることがあります。


 この日も時間がなく書評コーナーにざっと目を通していたとき、刺激的な背表紙が目に入りました。乗越たかお氏の『どうせダンスなんか観ないんだろ!? 激録コンテンポラリー・ダンス』です。奥付によると初版は2009年、著者は舞踊評論家とのこと。ひっくりかえして目次をみると「第一章 私の偏愛するダンス」「第二章 どうせダンスなんて観ないんだろ!?」「第三章 乗越たかお激論集 アレ的なナニか」と続き、本気なのかよくわからん、と思いつつ借りてみてびっくり。コンテンポラリー・ダンスが好き、とか吹聴しているのにこの方の本を読んでなくてすいませんでした!と平謝りしたいような充実した内容でした。語り口はカジュアルですがはっ!と膝を打つような的確な解説になっています。雑誌などの連載を集めた本なので、当時の公演評やフェスティバル情報、ホットトピックスが生き生きと伝わってきました。


 日本海外問わず、この本にはライブ感のある記事が詰め込まれていますが、コンテンポラリー・ダンス全体を網羅的に扱っているので、振付家やダンサーの時代的な位置づけを知ることができます。特に私の目が見開いたのは、振付家でダンサーである勅使川原三郎の記述でした。乗越氏は「日本のコンテンポラリー・ダンスの元年を1986年とする」と書いています。この年、若手振付家の登竜門、バニョレ国際振付コンクールで勅使川原三郎が日本人として初めて入賞し、舞踏の創始者である土方巽が没しました。どちらも高校生だった私が生で観てみたい!と切望していた作品でした。当然、大学に入って初めて観に行ったのは勅使川原三郎で、作品は「Bones in Pages」だったことを鮮明に覚えています。


 と、ノスタルジーに浸りながら読んでいましたが、さらにこのような記述が。「当時(1986年)の勅使川原は、髪までも白く塗り、人形振りのようにシャープな動きから、たゆたうような情緒あふれる動きまでを自在に操って、硬質で豊かな美的空間を作り上げていた。振付にしても『ただ倒れて起き上がる』というだけの動きで魅力的なシークエンスを作ってしまう発想の自由さ。さらに衣装・照明・音楽など、すべてにおいてキッパリした新しさがあった。ああもうここから次の時代が始まるんだな、と観客は震えるような思いで見ていたのである」(p8-9)。勅使川原三郎の、完璧にコントロールされた美的世界に私はただうっとりうち震えてただけですが、その感情が言葉で書かれており、そうそう!こういうことだったのよ!と大きく頷きました。


 私が大学に入ったのが90年代半ばで、それから今までずいぶん多くのコンテンポラリー・ダンスを観てきたと思っていましたが、この本を読むと私の趣味が恐ろしく偏っていながら、まあ的は外していなかった、ということが解りました。が、ダンス業界の知識は2003年あたりで止まっていました。これは慌てて着いて行かねばなりません。


 という訳で乗越氏のもう一冊の教科書的著書である『コンテンポラリー・ダンス徹底ガイドHYPER』買って読んでいます。これは海外と日本のダンサー、カンパニーごとにページが分かれているので、まさに網羅的なガイドと言えます。コンテンポラリー・ダンスに興味がある人は、とりあえず押さえておきたい二冊です。


 いま私の頭の中は、いいダンサーの舞台を観たい!生で観たい!そんなこんなで一杯です。

乗越たかお 著 
NTT出版