2008年2月5日火曜日

現代美術への正しい道

 イギリスの新聞、The Guardianのウェブサイトで興味深い記事を発見しました。イギリスにはGCSEという中学卒業認定試験があるのですが、その中で美術・デザインの試験が波紋を呼んだというものです。裸の男がベッドの上の子供に近づいているシーンを写した作品が設問に使われたところ、学校側から「虐待を受けたことがある子供が見たら、良くない記憶を刺激してしまうかもしれない。」という指摘があったそうです。保護者からもクレームがきて、結局この試験は「リコール」されました。

 問題の写真は、トレイシー・モファットの『Heart Attack』という作品です。ぱっと見ると、この後何かが起こりそうで不穏な、不安を感じさせる写真です。しかし作者自身は、子供の性的虐待について描いたものではない、と言っています。

 記事では、現代美術のキュレーターが一連の問題に対して、「芸術をオブラートでくるんだり、過剰に単純化するのは、教育の理念から外れているのでは?」と苦言を呈しました。私もこのキュレーターの発言に共感しました。試験でどのように取り上げられていたかは分からないので、何ともいえないのですが、美術作品を読み解く力をつけるチャンスが失われたのは、残念に思います。とはいえ、生徒にとっては選択の余地がない試験というかたちでは、やっぱり受け止めきれない子供もいるでしょう。特に現代美術は、切り口や表現方法が多様になるにつれ、同時に過激さも増していくように感じます。作品ときちんと向き合うためには、そこまでの手順や状況を整えることも重要だと考えさせられるニュースでした。

Guardian Unlimited ”'Child abuse' exam paper recalled” 2008/01/20 から抜粋しました。


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